セラス変異抄
 番外編…そして7年後に
作:MUTUMI

7年後…、星間特使本部14:34。
「んー、疲れた」
ふわわとダークは欠伸をし、眠い目を擦る。
なにしろこの一週間はまともに寝ていないのだ。仕方ないじゃないかとか思いつつダークは談話室に入っていった。
「ダーク!捜したよ。ここにいたの?」
目ざとくダークの姿を見つけた、自分の同僚タクヤ・ローレンが声をかけ、駆け寄って来た。何やら焦っている様にも見える。
そんなタクヤにダークは、ぼへぼへとした緊張感の欠片もない顔をして、片手をあげ応える。
「およ、タク。お前も休憩か?」
「何言ってんの!これから新人の出迎えじゃないか。たしかダークも、レセプションメンバーに入ってただろ?俺ずっと捜してたんだぞ」
タクヤはダークをちょっと恨めし気に睨みながらそう言った。ダークは驚いて自分の記憶をひっくり返し、そういえばそんな話があった事を思い出す。
「やべー。あったな、そんな話」
「…ダーク」
タクヤは呆れた顔をしてダークを睨む。
「あはは。滅茶苦茶忙しくてころっと忘れてた。悪い」
「全く。…本当に仕方ないな。もういいよ、ほら、早く。行くよ!」
タクヤはダークの腕を引っ張るとズンズンと歩きだした。
何しろ式典は10分後に始まるのだ。欠席するわけにはいくら何でもいかないだろう。
ダークは星間特使の中でも別格、本当に危険な任務を成功させてきた、いわば星間特使の顔のようなものだ。そんなダークがレセプションを欠席すれば、新人達はこぞってがっかりするだろう。ぐちぐち言われるのは、前回のレセプションだけで十分だ。
タクヤはそんな事を考えながら、いまいち自分の立場を認識していないダークを引っ張っていった。

新たに任命された星間特使を歓迎するレセプション会場は、公式な会見を行う議場で催された。
新人の星間特使達が男女取り混ぜ20人余り整列している。事務方の職員や他の星間特使達と共に、ダークやタクヤも指定の座席に着席する。新人達は皆誇らし気な顔で立っていた。
ダークはおやおやと思いつつ、苦笑を浮かべ自分の後輩になるひよっこ達を眺める。隣のタクヤは真面目な顔をして、彼等を見ている。
ダークはこそっとタクヤに声をかける。
「タク。真面目じゃんか」
「そりゃあね。だって、将来一緒に仕事をするかもしれないんだよ。最初ぐらい真面目に、いい印象を植え付けないとね。星間特使全体がいい加減だなんて思われたくないし」
「……あう。まだ怒ってるのか?」
「俺に聞くか?」
タクヤは苦笑を浮かべ、ダークを横目で見た。
「すみませんです」
ダークは小声で呟き、しおらしくも反省の意を見せる。
「わかればよろしい。次回の式典では遅れても捜しにいかないからね」
「はい。気をつけます」
ダークはかなわないなと、自分の同僚であり自分と同じくフィフティーンチャイルドであるタクヤに、白旗を揚げたのだった。
レセプションは何ごともなく、順調に厳粛な雰囲気の中30分程で完了した。


□□□□


堅苦しいレセプションが終わった後、新人達と既に中堅あるいはトップクラスの星間特使達との交流会が催された。早い話がざっくばらんな話をするための飲み会だ。
タクヤと二人壁際で話し込んでいたダークは、そんな折り一人の青年に声をかけられた。
黒髪、藍色の瞳の男性であった。
「あの、私を覚えてますか?」
「えっと、俺?」
ダークはそう言われ、きょとんとして青年を見返す。
言われてみれば確かにどこかで会った事のある気がしないでもない。
どこかで見た気がするような、しないような…。誰だ?
「翠月と言えばわかりますか?」
「翠月?」
あれ?あ、もしかして!
「あの時、おばば様の元に案内してくれた男の子か?」
「はい。私も星間特使になりました」
ダークは目を丸くし、青年を見つめる。
げげ。思いもつかなかった。まさか星間特使になっているとは…
「ダークさんの事はすぐにわかりました。だって、あの時と同じ目の輝きをしていましたから」
「そうか?結構老けたと思うけどな」
ダークは苦笑しながら、そう呟く。
「ダーク、知り合いなの?」
「ああ。昔仕事で助けた子供だよ。星間特使になるなんて思いもよらなかったな」
ダークは言い、肩を竦める。タクヤは面白そうな表情をして青年を見た。
「成臣(なるおみ)、群条成臣(ぐんじょうなるおみ)です。臣って呼ばれていました」
「ふーん。よろしく、新入りさん」
タクヤは微笑を浮かべ成臣を歓迎した。
「よろしくな。臣!」
ダークも朗らかにそう言い、新たな星間特使を歓迎したのだった。

これより後、あの小さな子供だった成臣とダークは、時々組んで仕事をすることになる。
……が、それはまだまだ先の話。              END



番外編7年後の臣です。いれようかどうしようか迷ったんですが、入れました。ここで入れないと後は無理だしなと思いまして。番外編だから時間を無視してもいいでしょう?

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