遭遇と接近6
作:MUTUMI DATA:2006.1.2


 一矢が全員を案内した場所は、ちょっと寂れたビルの一画にあった。こじんまりとした店構えで、カフェらしき目印もなかったが、店の中はくつろげる空間が広がっていた。
 ビルの中階に位置するため、テラスと続いている窓からは、青い空と遠くに広がる海も見えた。心地よい自然風が、そよそよと店内にたなびいている。
「ん、おいしーっ!」
 テラスに近い一番大きなテーブル席に陣取った一行は、出されたシフォンケーキに舌鼓を打った。ほんのりと甘く、ほんのりと苦い紅茶味がたまらなく美味だった。
「ふわっふっわ〜」
「うん。物すっごく美味しいね」
 蕩けそうな顔で誰もが絶賛している。
「甘いのは苦手だったけど、これは全部食えるぞ」
 イオが珍しくフォークを動かしていた。エスプレッソを飲みながら一矢が柔らかく微笑む。
「味は合格?」
「100点満点よ。最高ね、ここのシフォンケーキ!」
 パイが嬉しそうにケーキを口元へと運ぶ。一矢はそんなクラスメイト達の様子を、微笑ましそうに見ていた。ゆったりと椅子に座って見つめる眼差しは、とても温かく優しい。極寒の氷を溶かす太陽のようだ。
 カウンター席で、この店のマスターと顔を突き合わせて、アルメイニの革命評議会に対する仕返しの方法を話し込んでいたダークは、そんな一矢の様子に少なからず驚いていた。ダークの知る一矢の様子とはかなり異なっていたからだ。
「吃驚した。一矢兄(にい)ってば物凄く丸くなってないか?」
 出されたコーヒーに口を付けつつ呟けば、カウンターにいるマスターも同じ様な事を述べる。
「脳みそに花が咲いているな」
 余りと言えば余りな言い方に、ガクリとダークの力が抜ける。
「ネッドォ……」
 恨めしそうな声をあげれば、反省したような眼差しが一応は返って来た。このカフェのマスターでもあるネッドは、ダークとの会話を一旦打ち切り、洗ったばかりのグラスを布巾で拭きつつ、窓際に座る一矢をじっと観察した。
 一矢は何が面白いのか、声を上げて同級生達と笑い合っている。会話は流石に聞こえては来ないが、楽しそうな様子はいやでも伝わって来た。朗らかな、とてもくだけた表情をしていた。
「女子供には元々甘かったが、暫く会わない内に磨きがかかったな」
 低く渋い声がそう評価を下す。線の細い中年男性は、かつての一矢の同僚にして今現在では裏社会に名を轟かす何でも屋の男は、そう言って面白そうに笑った。
「まあ、こういうあいつも悪くない」
「悪くないけど、なんか兄っぽくないよ」
「ダークから見た一矢は、そんなに何時もピリピリしていたのか?」
「いや、そうでもないけど。んー。ほら、戦争末期の恐い兄のイメージが強いからさ。何か合わないっていうか……変な感じがするだけだよ」
 言いおいて、コーヒーを啜る。
「けど別に、それが嫌な訳じゃないぜ。楽しそうな兄を見ていると、こっちまで楽しくなるし」
 その言葉を聞きながらも、ネッドはキュッキュッと音を発てグラスを磨いてゆく。太い指が繰り返す動作は、手慣れたものだった。
「……戦争末期のあいつは、俺からすれば頭のネジが一本ぶっ飛んでたよ。精神的に限界ギリギリだったんじゃないか?」
「……」
「自分を兵器だと思い込もうとしていたのかも知れないな」
 キュッキュッ。
 グラスを拭く音は続く。
「兄は、そんなに追いつめられていたのか?」
「あー、まあな。あいつもまだまだ子供だったしな。かけられていたプレッシャーも並じゃなかったし」
 ネッドはそれだけ言うと押し黙った。それ以上は具体的に教えるつもりはないらしい。ダークも敢えて聞こうとはしなかった。
「ただなあ、ダーク。一矢が脳天気に茶を飲む時が来るなんて、あの当時は想像も出来なかったぞ」
「戦争に勝てるとは思わなかったってこと?」
「いや、生き残るとは思わなかった、って方だ」
 ダークの指がピクリと反応する。
「覚悟してたよ。俺もあいつもあそこで死ぬ事を」
「……」
 ダークは沈黙し、唇を噛む。一矢に近いレベルの特殊能力を持ちながら、十年前は子供でしかなかった自分に、憤りと腑甲斐無さを感じているのだろう。今なら一矢の補佐も勤まるが、昔は到底無理だった。
 そんな青年の心情を察して、グラスを拭きながら茶化す様にネッドが語りかける。
「戦争が終わって、一矢も気が抜けたんだろうさ。ま、脳みそに花が咲いているのはいただけないがな」
「……そっか」
 フッとダークの口元が穏やかに弛んだ。その横で、拭いたグラスをネッドが順番に戸棚に仕舞って行く。
 その仕草を見ながら、ダークは残りのコーヒーを一気に飲み干した。きゃらきゃらと響く笑い声が窓辺から溢れて来る。
 声に釣られて視線を向ければ、一矢が隣に座る少女の耳元に何やらひそひそと告げていた。話しかけられていた少女は背中を丸めて笑っている。
「……なんだかなぁ」
「ん?」
「兄ってば青春を謳歌してる」
 ダラリとカウンターに懐き、ダークは呟く。
「狡い。俺だってしてみたいのに」
「……お前も行くか? がっこー」
 ネッドの静かな突っ込みに、勉強嫌いのダークはしおしおと項垂れた。何のかんのと色々あって、結局ダークも碌に学校には行っていないのだ。だから若い癖に青春を満喫した事もない。
「いや、いい。俺、仕事を山程抱えて忙しいし」
 単に勉強をしたくないだけだとバレバレだったが、ネッドは肩を竦めただけで何も言わなかった。これ幸いと、飲み干したカップをカウンター越しに差し出す。
「おかわり」
「ブラックでいいのか?」
「うんと濃いの頼むわ」
 添えられていた手製のクッキーをポリポリと齧り、ダークはそう返した。
 その後、約束通り全員分のお茶代を支払い、幾分かすっきりとした顔をして、星間特使は仕事へと戻って行った。無論、アルメイニの革命評議会に対するささやかな意趣返しの手筈が、ネッドの手によって整えられていた事は言う迄もないだろう。



 ティータイムも終わりダークと別れた一行は、次の目的地へと向かった。
 向かった先は、エネで最も大きなテーマパーク『ミラージュランド』、”幻想の夢を売る”をコンセプトとした体感型のテーマパークだ。立体映像や音響を駆使し、あり得ない世界観を作り上げる事で有名だった。
 『ミラージュランド』は、テーマパーク自体が仮想の国家を形成している。中で遊ぶ人間は、用意された幾つかのパターンの衣装を身に纏うのが基本だ。
 衣装には様々な趣向が凝らされており、おかしな物にはきぐるみもあり、中でも子供用きぐるみのクマさんは、親からの熱烈な支持を受けていた。
 大人向けにはスーツやドレスも多種あり、その素材も絹、綿、ポリエステル等多岐に渡る。デザインも古今東西の星間の民族衣装を元にしており、目が痛くなる程きらびやかな物から、物凄く地味な黒服迄あった。誰もが憧れるお姫さまや警官などの職業服までもが、着用可能な範囲となっている。
 つまり、恐ろしく無茶苦茶な文化が混在した世界観が、ミラージュランドの特色なのだ。
 どれ程著名な人物であれ、誰もがここでは馬鹿になれる。また、そうでなければ逆に浮いてしまう場所だった。

 ゲートから入ってすぐの場所、衣装合わせが終わったら集合と決めていた場所で、男子一同はぐったりと座り込んでいた。30分も経つのに、パイもアイリーンも誰一人顔を見せないのだ。なんとなくそんな予想はしていたが、誰もこの現実を認めたくない。
「なあ、何時出て来るんだ?」
「さあ。……長くかかりそうだね」
 色違いのマントを羽織ったケンとシグマが、頬杖をつきつつそう愚痴る。二人は、騎士服としか呼べないくすんだ茶色のチュニックとズボンを穿き、ロングブーツ姿だ。腰には飾りの長剣を佩いている。
 その向かいには、造花のバラを胸ポケットに挿した、黒のタキシード姿のイオが居た。貴婦人ならぬ、貴公子のつもりらしい。
「もうそろそろ来るんじゃないかな?」
 控えめにそう主張し、濃い緑色の長衣を来たシドニーが皆を見やる。この中では唯一まともな服装だと言える。派手すぎず、目立たず、普通な感じの服だった。
「あ、出て来たよ」
 黒一色の出で立ちの一矢が、遠くを指差す。厳めしいデザインの黒のロングコートを着た一矢の腰にも、二本の剣があった。どうやら賞金稼ぎか何かのつもりらしい。胸には大きな髑髏のシンボルが見える。服は物凄く厳ついが、一矢の顔が顔なので、何故か優美にさえ見えた。
 パタパタと同じような衣装を着た二人の少女が、互いの手をとって駆けて来る。
「じゃん! お姫さま」
「同じくひめー」
 クルクルと一回転し、色違いの豪奢な衣装を着たメイとアイリーンが長いスカートの裾を掴む。優雅に一礼し、誉めて誉めてと男子一同を見た。頭には小さなティアラもある。
「おお、綺麗、綺麗」
 平坦な声でケンが応じる。
「うわ、真剣味がないっ!」
 すかさずメイが噛み付くが、疲れた表情のイオにまあまあと宥められた。
「衣装選びに30分。……頼む、もう少し早くしてくれ。俺はもう待ちくたびれた……」
 げんなりとした表情はどう見ても疲れ果てている。周囲を見渡せば、男子は誰も彼もが同じ表情だ。
「……あは。や、ごめんごめん。待たせちゃった?」
「かなり」
 シグマが真顔で頷く。
「それでサミーとパイは? まさかまだ選んでいるんじゃあ?」
 ゾッと何故か顔色が青くなる。
「時間もないんだし、俺は早く遊びたいんだが」
「直ぐ来るよ。あの二人はね、メイドさんだよ」
「……またマニアな」
 ケンがぼそりと呟く。その途端、
「お待たせ〜。見て見て、レースのエプロンだよ」
「可愛いでしょ」
 どこからどう見たって、通好みの衣装で二人が姿を現した。紺色の上下の服の胸元には大きなリボン。細かいレースのついたエプロンが、ヒラヒラと腰で揺れている。靴は踵の高い編みブーツだった。
「似合うかな?」
「……え、うん。似合うよ」
 パイから期待に満ちた眼差しで見つめられ、思わず一矢が答える。
「可愛いよ」
「えへ」
 幾分か照れてパイが笑った。
「一矢君もその髑髏、格好良いよ」
「……あはは。どうも」
 髑髏を誉められて、さてどうしたものかと思いつつ、一矢は漸く揃った一行の先頭に立って歩き出す。
「とりあえず、あっちに行こうよ。中央の方に塔があって、冒険が出来るらしいから」
「バーチャルロープレ?」
 パイがコミューターに表示された施設案内図を見ながら、聞き返す。
「そう。なんだか色々とストレスが溜まったような気がするから、モンスターでもぶつ斬りにしようかなと思って」
 物凄く一矢らしいといえば一矢らしい言葉に、一同は乾いた笑みを浮かべた。
 時々本当に、真剣に一矢がデンジャラスに感じる時がある。この時も正にそうだった。学校では遠慮して見せない一矢の素が、出ているとしか思えない。
「好きなだけ叩き斬ってくれ」
 イオが一矢の背に向かってボソリと零す。
「うん、思いっきり暴れさせて貰うよ。ちなみに上級者コースをクリアすれば、金のクマのオブジェが貰えるらしいよ」
「え!?」
「金!!」
「クマ!?」
 各々細かい反応は違うが、全員がガシッと一矢の腕を取った。
「ふえ?」
 何さと、一矢が皆を見回す。
「一矢君!」
「この際だ、皆で仲良く!」
「上級者コースに挑戦しましょ♪」
「金のクマゲットだ〜」
「是非父上のお土産に!」
 一致団結した一同は、一矢を囲んでワイワイと言いながら塔を目差した。



 薄暗い廊下にピチャピチャと水滴が落ちる。四隅に生えた光り苔が、ほの蒼く輝いていた。
「うわ、マジに暗いな」
「物凄く無気味だね」
 おっかなびっくりイオとシグマが一矢の後を付いて行く。先頭を行く一矢には、今から強大なモンスターとの対決が待っているというのに、悲愴感は全然なく、何故か鼻歌混じりに御機嫌だ。両手に抜き身の剣を下げたまま、気楽な調子で足を進めている。
「ねえ、ラスボスはまだ?」
「もう少し先じゃないかな?」
 魔法使いの杖を持ったお姫さまスタイルのメイとアイリーンが、肩を寄せあう。その後を箒を持ったパイとサミーが続いた。箒とは言っても、アタック強化がしてあるので、その辺のザコ敵なら一撃で蹴散らせる。
「金のクマ♪」
 最後にスキップをしながらケンが続き、シドニーがワクワクとした表情をしてその横に並ぶ。
「ボスはどこかなっと」
 言いつつ、一矢はゲシッと自らの足で目の前の扉を蹴り破った。足の裏には何の感触もしなかったが、3Dで出来た扉は粉々に砕け散った。その先に広いホールが見える。
 一際高い玉座と思われる場所に、敵の親玉が座っていた。何故か白いマシュマロに、目と鼻を書いた顔であった。
「出た! ラスボスのマシュマロマン!」
 ケンが敵を指差して吠える。
「そこまでだ、覚悟しろ!」
 ビシッと勇者らしき言葉を告げる。マシュマロ顔の敵が、ホホホホホと笑った。
『よくぞここ迄来た、勇者達よ! 我の度重なる攻撃に耐え、マシュマロン伯爵の屍を乗り越え、幾千の兵士達を倒し……』
 そんな風に続く長い長い口上の途中で、
「じゃあ、一番手行って来ます」
 シュタッと両手に持った剣を掲げ、一矢が突っ込む。マシュマロマンの口上が止まり、
”ラストファイト”
 スピーカーから音がした。途端に、景色が戦闘モードに移行する。五目の床を蹴って、一矢が跳んだ。その足下に稲妻かと錯覚する光が走る。
「遅い」
 右手の剣で飛んで来る3Dの白い泡を切り捨て、左手に持った剣をマシュマロマンに向かって投げつける。剣はボヨンとした敵の体に突き刺さった。
 マシュマロマンが痛そうにそれを引抜き、口から飲み込む。効果のなかった武器は没収という訳だ。
 次々と押し寄せて来る泡を、一矢は全て剣1本で切り捨てた。
「一矢君、頑張れ〜!」
「金のクマだぞ〜」
 戦闘区域外、安全ゾーンにいるパイやケンが声援を送る。
「任して」
 素早い動きで、一矢がマシュマロマンの背後に回る。キイィと錆びた音をさせ、マシュマロマンの腕が振り回された。
 ブウウン。
 一矢の頬を翳めて、腕が水平に空気を薙ぐ。
「……え?」
 微かな痛みを頬に感じた。細く小さく皮膚が切れていた。そこから赤く血が滲む。
「……なんで?」
 飛び離れ、一矢は瞳を細めた。
「人には無害なはずなのに……」
 安全上、人間に危害を加えるような設計にはなっていない。それなのに、何故か一矢の頬は切れている。
「あれの腕の先……キラキラ光ってる?」
 金具か何かが飛び出しているのだろうかと、一矢は訝しんだ。その途端、
”桜花!”
 スピーカーから、慣れ親しんだ男の声が聞こえて来た。
「!?」
 ぎょっとして一矢の動きが遅くなる。マシュマロマンの拳が真直ぐに向かって来た。
 普通なら当たってもノックダウンの表示が出るだけなのだが、今はそれで済むとは思えない。一矢の目にはくっきりと、マシュマロマンの腕から伸びた刃先が見えたのだ。
”潰して下さい”
 何だかややこしい事になっているらしい。簡潔に指示だけ送って来るボブに、
「了解」
 そう返し、一矢は右手に持つ剣を構えた。焦げ茶の瞳に光の紋様が踊る。一矢の持つまがい物の剣がうっすらと、自ら輝いた。
 真正面に迫った腕に向かって一矢は刃を叩き込む。マシュマロマンの腕は水平に先から二つに割れた。
 バチッ。
 電子回路が切り裂かれショートする。ガクガクと大きく揺れて、マシュマロマンは静止した。途端に、3Dの紙吹雪が一斉に天井から降って来る。
”ダンジョンクリア!”
 システムメッセージの音がする。ボブからの追加の説明は何もなかった。
「ふうん」
 瞳の中の光を消し、スピーカーを軽く睨んだ後、手に持っている剣に視線を落とす。無理矢理サフィンの力を同調をさせたためだろうか、刃先どころか根元から剣はボロボロになっていた。
「あちゃあ、弁償じゃないだろうな?」
 片眉をしかめつつ鞘に戻す。クルリと背後を振り返ると、パイやシグマが両手を叩いて大騒ぎをしていた。
「やったぁ!」
「上級者コースクリアよ」
「金のクマ!!」
 やっほ〜いとケンは大騒ぎである。
「凄いよ、若林!」
「流石だな」
 全員がニコニコ顔で一矢を迎えた。
「あはは、そう?」
 大した事ではないと応じつつ、一矢は紙吹雪の舞う中を出口へと向かう。
「景品貰いに行くよ」
 まだ大騒ぎの全員に声をかけると、慌ただしく皆が駆けて来る。
「待てよ」
「待って〜」
 賑やかな合唱がダンジョンの中に響いた。



「不幸中の幸いって言うのか、これ?」
 ぐったりと疲れた声で青年が漏らす。
「……言うんですかね?」
 同じく疲れた表情をして、男も漏らした。
「一矢兄と別れたと思った途端に、コレだろう? なんか糸でもついてるんだろうか?」
 真剣に自分の小指を睨み、青年が考え込む。
「赤でない事を祈りますよ」
 ボブはダークを茶化しつつ、大きく息をつく。いつもの黒の軍服姿ではなく、今日のボブはラフなカジュアルスタイルだ。一矢を尾行する為に、目立たない格好をしているのだろう。
「それにしても……後手にまわってどうするんですか?」
「ハハ、面目ない」
 頬を掻きつつ、ダークが曖昧に笑う。
「犯行予告を受けた担当者は、愉快犯だと思ったらしくてさ」
「……内容は愉快犯に近いですが、実害が出てからでは遅いんですよ」
 幾分か嫌味ったらしく告げると、
「そうだよな〜」
 ダークも困った顔で同調する。
「犯人もさ、なんでうちみたいな部外者に予告するかな? 普通はこういうのって、警察にするだろう?」
「さあ」
 聞かれても困るとボブは告げ、マイクを青年に渡した。
「もう行くのか?」
「移動を始めたようですから。ああ、後で詳細を教えて下さい」
 一矢も知りたがるでしょうからと告げ、ボブはダークに背を向ける。
「はいよ。じゃあまたな」
 気楽な声に送られて、ボブは『ミラージュランド』のコントロールルームを後にした。



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