海賊退治のしかた
2重武装戦艦カトーバ

作:MUTUMI

闇。漆黒の闇の中、瞬く星々が小さな光を放っている。闇は深く、はるか彼方の惑星達を覆い隠していた。
そんな中、人知れず空間を突き進む小さな物体があった。球形の物体はその質量からすれば、信じられないスピードで進んでいた。
物体の進む先には隕石群がある。その中の一つを目差し進んでいるのだ。物体はキッズ・パーキンスの操縦する救命ポッドだった。

「おー、いるいる。海賊連中は浮遊隕石を改造して基地にしてるのか。かなり大掛かりだな」
俺はそう独りごち、ニヤリと笑みを浮かべる。久しぶりの獲物に気分が高揚してきていた。
「さて、どうやって潰すかな?」
とりあえず、カトーバは返してもらおうか。あとは人質の救出を優先させて、海賊退治はそれが終わってからだな!

俺の乗る救命ポッドは一直線に浮遊隕石に向かって進んでいく。ポッドに搭載された『オーディーン』の戦闘機能が浮遊隕石からの攻撃に警告を発する。
現れる様々なデータを瞬時に読み取り判断すると、俺はポッドを操作した。迫りくるレーザー光をものともせずポッドはあり得ない動きを展開する。俺の乗るポッドの左右すれすれをかすめてレーザーは飛んでいった。

「照準が甘いな。そんなもんに当たるかよ!」
叫び、レーザーの雨霰の中に飛び込む。普通なら無傷でいることは不可能だろう。しかし、俺は違うのだ。そんな物を避けられないようでは、『カトーバ』の艦長などやっていけない。

それにしても、俺がこれだけ派手に登場したっていうのに、何をやっているんだ?うちのクルーは?さっさと逃げ出してこいよな!
特に、ロブ!お前さぼってないか?

普通なら首をかしげたくなることを俺は考える。まあ、あくまで普通ならだ。ロブ相手なら、海賊だろうがなんだろうが常識なんて裸足で逃げ出す。あいつに関してはこれっぽっちも心配なんてしていない。何しろロブは普通じゃないからな。俺ですら時々恐ろしくなる。
あいつは普通じゃない。
これは俺を含めカトーバのクルー全員が知っていることだ。だからこそ俺は、クルーの心配をしないですむ。あいつがついてて何かあるわけがない。

「ロブ」
俺は呟く。そして、強く強く呼び掛けた。
”ロブ、ロバート!寝てんじゃねーぞ。さっさと船とり戻してこい!そんでもって、人質救出して海賊ぶっ潰すぞ!”

聞こえているはずはない。けれど俺は知っている。俺の声がロバートに届いていることを。あいつは普通の人間じゃないからな。


□□□□


そんな頃、独房の中ではロバートが何やら考え込んでいた。
クルー達はそれぞれぼーっと壁に寄り掛かっている。
「ふう、暇ね」
「全く。ブリッジの掃除だって終わってないのに」
予定では、今日が大掃除の日だということを思い出しシイナがぼやく。
「航宙図のチェックだって終わってなかったぞ」
航海士のカルは眉間にしわを寄せる。自分の仕事がたまっていくのが嫌だったのだ。
「カトーバどうしてるかな?他のクルーのみんなも無事かな?……早く戻りたいなカトーバに」
レビはぽつりと言い、何やら考え込んでいるロバートを見た。先ほどから微動だにしない。

さっきは反撃するって言ってたのに、ロブさんどうしたんだろう?
ミアはロバートに声をかけようかどうしようか迷っていた。そんな折、初めてロバートは明確なリアクションをした。
いきなり独房のロックの掛かった扉を引き裂いたのだ。扉はぐしゃぐしゃに潰れる。チタン製の扉を片手で引きちぎる男、それがロバートである。

「ああッ!?ロブ?」
「どうしたんだ、いきなり!」
カルとヒューは驚いてロバートを見る。ロバートはさっさと歩き出しながら言った。

「キッズに呼ばれた。船取り戻して、人質を救助しろだと」
「!」
「どうやら、近くにいるみたいだ。俺は行くが、皆はどうする?」
ロバートはそう言い、クルー達を見た。とたんに彼等はしゃきっと直立し、答え返す。
「もちろん行く!」と。

そうして、ロバートを先頭にクルー達は独房を抜け出した。元々、脱出しようと思えばいつでもできたロバートだ。次々と独房を破壊し、カトーバの他のクルー達を連れ出した。
クルー達の中にはカトーバの管制業務に就かない、もっとはっきり言えば強襲制圧部隊『HOUND(ハウンド=猟犬)』の人間もいる。SCA『宇宙軍』でも最強ランクに位置する強襲制圧部隊の一つだ。自由になったからには、ただではすまさない。
異変に気付き慌てふためく海賊を軽くあしらい、彼等は暴走する。

「きゃー。助けて。……なんてね!」
シイナは言い、海賊から奪ったレーザー銃のトリガーを引き連射する。
「カル、人質見つけた?」
「まだだ。閉じ込められていたブロックが違うんじゃないか?」
ミアとカルはそんな会話をかわしながら、走っていく。彼等の遥か前方では乱れ飛ぶレーザーの光を、ものともしないロバートが独り突っ走っていた。
ロバートは自分に当たりかけたレーザーを弾き、進路を塞ぐ海賊をほとんど素手で殴り倒している。あまりにも、常識を覆す光景だった。

「うわ、ロブさん凄い!」
「ううむ、相変わらず人間技じゃねーな」
うすうす、もしかしたら自分達とは全く違う種族の出身では?と思っていたカルは、より一層それを強くする。
ロブって、もしかして人類じゃないのでは?あれって、ESPとかの補助能力でもないだろうし……ううむ、ロブって今さらだけど何者?

カルにそんな疑問を抱かせたロブは、唇に冷笑を浮かべている。宇宙海賊をなぎ倒しながら、ロブは本来の自分を取り戻しかけていた。理性というものを持たない冷酷な兵器である自分を。
「化け物め!!」
海賊の叫ぶ声がロバートの耳にも入ってくる。

だから、どうした?そんなこと知ってるよ!

ロバートは海賊達を敵と認識し、排除のために動き続ける。自分をさえぎろうとする障害には、全力で対処していた。
そんな時、ほんのわずかぴくりと自分を刺激するものが現れる。
「!」
来たか!
表情にはほとんど出さず、ロバートは微かに笑みを浮かべた。
自分が人間だと、そう言ってくれる貴重な青年が来たのだ。ロバートは心の中でカウントする。

5,4,3,2……
1のカウントとともに通路の角から、ブロンドの髪の青年が飛び込んでくる。見なれたいつもの青年の姿だ。
クルー達からどよめきに似た歓声があがった。

「艦長!!」
幾つもの声が唱和する。
「え、嘘。かんちょー?」
「よかった!心配したんですよ」
皆それぞれ思い思いに声をかけている。青年、キッズ・パーキンスはそんなクルー達を見て、にこやかに笑う。
「ようやく合流できたな。皆無事か?」
「はい!」
クルー達は意気揚々と答える。
「そうか、良かった」
そう言い、キッズはロバートをみやる。

「聞こえたか?」
「女性の声が聞こえた方が嬉しいのですがね」
「言ってろ」
キッズは軽口をたたきながら、カトーバ副艦長であるロバートの側に寄って行く。
「どうやって来たんですか?」
「蛇のみちは蛇さ。俺を誰だと思ってる?ロブ」
「SCA『宇宙軍』所属、重武装戦艦『カトーバ』艦長、キッズ・パーキンスでしょう?」
ロバートは苦笑を浮かべながら応え、ほっとして張り詰めていた肩の力を抜く。
この青年が来たからにはもう大丈夫だと、それがわかるからだ。自分なんかよりも遥かに化け物じみている。自分が無条件に服従を誓ってしまう人物なのだ。

「で、人質はどうした?」
「まだ発見していない」
ロバートは苦々し気に答える。ふうん、と頷きキッズはクルー達に命じる。それは間違いなくSCAの重武装戦艦を指揮する人間の命令だった。

「反撃するぞ。強襲制圧部隊『HOUND(ハウンド=猟犬)』は武器を確保次第、前面に。おって人質を確保しろ。管制クルーはカトーバを確保。急げ」

「了解」
クルー達の緊張した声が見事に重なる。
自分達の信頼する艦長が戻って来たのだ。これで不安は消えたとばかり、クルー達は猛然と反撃を開始した。

一時間後海賊は一掃され、カトーバを取り戻したキッズ達は人質を連れ、意気揚々と凱旋したのであった。 宇宙海賊達は一網打尽にされた。
だが、とうとう最後まで海賊達は自分達に反撃してきたものが、何であったのか気付くことはなかった。気付いていたなら恐怖の余り震え上がっていただろう。
よりにもよって、SCAのしかも、あの何かと曰く付きのカトーバを襲撃したなど、馬鹿以外の何ものでもない。

後々裏世界で失笑とともに語り継がれる『カトーバ襲撃事件』はこうして幕を閉じたのだった。
この襲撃事件を伝え聞いた裏世界の住人達は、みなこう言ったという。

「どこの田舎者だ?キッズ・パーキンスに手をだすとは?」と。

仮にも裏世界に生きる者なら知っているだろうに。SCA最大の禁忌の一つだと言うことを!
『リュカーン』と呼ばれる、人造の人権すら無い戦闘兵器を自分の船の副艦長に添え、平然と重武装戦艦を指揮している青年を。
『星間連合』の創設者の一人でもあり、今もって星間最強の指揮官の名を欲しいがままにしているという事実を!

そして、住人達は腹を抱えて爆笑する。
「宇宙海賊ごときに落とせる船かよ!」という、一言を残して。


□□□□


裏世界でそんな酒の肴にされているとも露知らず、何ごとも無かったかのようにカトーバは今日も星の海を航海して行く。
勿論、自らの行く手に立ちふさがるものを蹴散らしながら……。         END



←戻る   ↑目次   次へ→