番外編 ワイン
作:MUTUMI イラスト:Moonlight Party  DATA:02.09.16


ーーーーー流れる星は宇宙(そら)を漂い
ーーーー光を映すーーー
ーーー宇宙(そら)の人よーーー
ー星の王よーー
ーー光の流れを見るものは
ー星がーーー流れる
ーー星がーーーー動く
ーーーー星々(スターズ)ーーーー


「ーーッズ。キッズ。何をしているんですか?」
「おわぁ!? な、何だロブか」
ミュージックを聞きながらうとうとしていたキッズ・パーキンスは、はっとして目をあける。

ーーーー留まりし星よーーーー
星々(スターズ)ーーー

まだミュージックは小さく流れており、ロブこと本名ロバートはその後を口ずさむ。
「永久(とわ)に還れーー、と。これは流星の歌ですか?」
「ん、そうそう。ふぁああー。・・・また寝てたかな?」
「完全に。全然当直になってませんね」
言い、呆れたような視線を向ける。
「ハハハハ・・・」
そうは言うが、マジに疲れてたんだよ〜〜。
内心文句を言いつつ、んーーーーと身体を伸ばし、一度室内を見渡す。
いつもは五月蝿いぐらいクルー達がいるのだが、今はキッズとロバートしかいなかった。しんとして、物音一つしない。
あーーっ、虚しい! 何で俺が一人で当直をしなければならないんだ!! 全然起きてらんねーよ。こうなったら、一層の事・・・。
キラン、輝く目でキッズはロバートを窺う。

「ロ〜ブ〜、お前当直に付きあわね〜?」
「・・・何故に?」
サングラスを押え、微かに後ずさりロバートは尋ねる。自分の当番ではないのに、どうしてそんなものをしなくちゃならないのか? 暗にそういう態度だった。
「眠いから」
ロバートの疑問にあっさりきっぱり返し、キッズはロブに耳寄りな情報を囁く。
「旦那、いいものがありますよ〜。ラトニア産ワイン」
「・・・・・・赤? 白?」
こそこそとロバートも聞き返す。第三者がいる訳ではないのだが、ロバートにとっては勤務時間外だが、そこはそれ。やはり外聞というものがある。条件反射で声も小さくなるというものだ。

「まっかっか(赤)」
ニヤッと笑いキッズはロバートを見返す。ロバートはごほんと一つ咳き払いをすると、おもむろに言った。
「・・・まあ、いいでしょう。では今日は付き合いましょう。で、例の物は今どこに?」
そう問われ、ごそごそとキッズは艦長席のシートの下をまさぐる。
「ほれ。まっさらだぞ」
右手にワインを持ち、キッズはニコリと笑う。呆気にとられ、思わず額を押さえるロバート。
「子供みたいな事を」
何故そんな所に隠すんですか?
無言のプレッシャーにキッズは肩を竦めてみせる。
「そうは言うが、こうでもしないと、うちのクルーどもが勝手に飲み尽くすだろが」
あの蟒蛇(うわばみ)どもに飲み尽くされたのは、一度や二度じゃないぞ。
「それはそうですが、何も艦橋(ブリッジ)にかくさなくても・・・」
「ここが一番安全なんだよ」
これでも色々考えたのだ。そして出した結論は、俺の足下が一番マシというものだった。
うむ。俺も苦労してるよな。

「まあ、ともかくグラスを持って来いよ。今開けるから」
嬉々として述べるキッズに、半ば以上呆れた視線を投げかけつつ、ロバートはグラスを取りに出ようとした。
その時。
ブリッジにけたたましい警報が鳴り響いた。眠気も一気に醒める馬鹿でかい音量だった。
「何だ?」
すぐさまキッズはミュージックを止め、艦長席の端末から警報情報を呼び出す。どうやら、外部からの緊急通信らしい。
「SOSですか?」
「恐らくな」
キッズは呟き、カトーバがキャッチした小さな音を拾い出す。声はかろうじて聞き取れる程の弱さだった。
”ーーこちーー、セントマリアナ号ーーー救援を求めーーーこちらはーーー”
声はそれだけを繰り返す。どうやら肉声ではなく、録音されたものらしい。
キッズとロバートは顔を見合わせる。

「セントマリアナ号って、確かこの間処女航海を終えたばかりの超大型貨物輸送船だったよな?」
「ええ。ですが変ですね。あの船の航海ルートはこの辺りじゃありませんよ。何故こんな所にいるんですかね?」
「無許可航海か?」
「さあ、どうでしょう? 少なくとも自分が知っているルートは、違いますね」
「ふうん」
キッズは曖昧に頷き、さてどうしたものかと考える。
セントマリアナ号程の巨大な貨物船にもなると、色々何かと規制がかかる。その規制の一つに航路の届け出があった。
今の所、ロバートが言うように、航路の変更は聞いてはいない。少なくともキッズは知らなかった。
「俺とお前が知らないんじゃ、まず間違いなく航路外を航行してたって事になる」
「臭いますね」
「ああ。プンプンするね」
「どうします?」
尋ねるロバートにキッズは真顔で返す。
「助けに行こう。SOSだしな」
そう言いながらも、キッズは短く艦内放送を入れた。
「全員起きろ〜〜。SOSが入ったぞ。部署につけよ〜〜」
かなり緊張感の欠如した声で、キッズは命じ、傍らのロバートにインカムを譲った。
「急げ。3分以内に持ち場につけ」
対してこちらは、厳格な声だった。声で聞く限り、キッズがロバートの上官とはとてもではないが、思えないだろう。

「しかしさ〜、ロブ」
「何です?」
ロバートは怪訝そうにキッズを窺う。まったりとキッズは宣う。
「何でよりにもよって、俺が当直の時にこうなるんだ?」
「・・・・・・普段の行いが悪いのでは?」
「・・・」
ひくっと顔を引き攣らせ、キッズは呟く。
「ま、あ、いいや。取り敢えず救助に行こう。うん、そうしよう」
かなり前向き、建設的な事を考え、キッズは手に持ったままだったワインを、再び艦長席のシートの下に隠した。
「赤・・・、飲めませんでしたね」
「そだな」
応えつつ、キッズは意外にも飲みたかったのか〜!! と、独り突っ込みを入れる。ロバートはかなり残念な様子で、サングラスを押し上げる仕種を繰り返していた。
「次の休暇で、どっか飲みに連れてってやるよ」
キッズは駆け込んで来るクルー達には内緒で、ロバートにそう告げておく。二ッと笑うと、ロバートも唇の端を釣り上げ応え返してきた。
酒飲み二人はクルー達が揃うと、先程のふざけた会話をうち止め、真剣な表情で告げる。

「カトーバ緊急発進! 目標セントマリアナ号!」
「救援部隊の編成を行う! 周辺の状況確認を急げ!」
そこには先刻の、とろんとした感情の欠片(かけら)もなかった。カトーバはフルスピードで、救難信号の発信地点に向かった。



テーマは酒。・・・いや、MUTUMIは下戸ですが。最近飲み会が多いもので〜〜。
おじさんズ(?)の一こまです。