学校へ行こう
3ともだち
作:MUTUMI DATA:2002.12.15

馬鹿話だわ。完全に・・・。


世の中には幾つかの偶然があると思うの。
うん、色々あれれ、凄い偶然だなって思う時があるじゃない。私の場合今がまさにその時だと思うのよ。

パイ・エルモアは自分の前に立つ少年を、ぽや〜っと眺めながらそんな事を考えた。
「パイ〜。すっごい偶然だろ? 何と同じ学校だったんだぜ〜。その上同じ学年で、同じクラスだぞ」
ケンはどうだ、この偶然の連続技は〜!
とかいう態度を見せ、傍観を決め込んでいたシグマに溜め息をつかせた。
これでは全然紹介になっていないよ。
心の中で突っ込み、シグマはケンを押し退けると、パイとアイリーンに一矢を紹介した。

「ケンは放っておくとして、こっち若林・一矢」
よろしく〜と呟き、一矢はにこっと笑う。何とも心臓に悪い笑顔満開で、パイとアイリーンは微かに赤くなる。
か、格好いい〜。というか、可愛い!!!
前にも思ったけど、こんなに綺麗な人初めて見たよ〜。うわっ。睫毛長い〜。手足も長い〜。な、なんか凄く華奢そう〜。
ケンやシグマに比べても、どことなく線の細さは拭えない。基本的に骨格が細いのだろう。
まあ、一矢の場合、成長期の栄養状態の悪さも原因の一つかも知れないが。

「この前会ったよね。怪我は治ったの?」
「うん。大丈夫だよ」
ピンピンしてると、一矢は笑う。
「私はパイ・エルモアだよ」
「アイリーン・ネストですわ」
二人の少女は順に名を名乗り、一矢を観察する様にしげしげと見つめた。
シグマやケンと同じ学生服、何の変哲もないブレザーを着ているのに、どことなくきびきびしていて、何故か近寄りがたい雰囲気を持っているように感じた。
あまり日焼けしていない肌は乳白色で、普通ならもやしの様な印象を受けるのだが、意志の強そうな瞳の輝きがそんな弱いイメージを切り崩していた。
身長は決して高い方ではない。小柄な部類に入るだろう。パイやアイリーンより少し高い程度だ。
決して筋肉質という訳ではないのだが、動作に無駄がないように思える。
顔立ちは今さら指摘するまでもなく、綺麗という言葉が具現化したのかと錯覚を抱かせる程だ。
グラビアアイドル顔負け、並んで立つと勝ってしまうんじゃないかと思える程の容貌だった。
今はまだ幼さが残るが、将来はさぞハンサムになるだろうと予測出来る。

「あ、あの・・・?」
二人の不躾な視線に、いたたまれなくなった一矢は困った表情で尋ねる。
「え? あ、不躾でごめんね」
「凄く綺麗だから、じっくり見ようかと思って」
・・・・・・?
一矢の顔に?が溢れる。どうやらこの少年はあまり自分の容姿に頓着しない、というか興味もないらしい。その上自分がどう見えるか、気付いていない様だ。
パイとアイリーンはそっと目配せする。
二人が考えた事はたった一つ。このやけに顔のいい同級生と友達になろう!計画だった。
ここで会ったのも、何かの縁だと感じたのだ。偶然もここまで揃えば、必然だ。
これはもう友達になるきゃない!の心境だった。

「そういえばこの前は、どうしてあんな所に倒れていたの?」
「え?」
若干引き攣った表情で一矢は呟く。
「私達が最初に会った時、公園に倒れていたでしょう? 服だってぼろぼろだったし」
「ああ、うん。ちょとね」
言葉を濁し、あいまいな笑みを浮かべる。
まさか任務だったとは言えない一矢は、どうしたものかと頭を抱えた。
できるなら触れないで欲しかった事項だ。自分でもあれは間抜けだったと思うだけに、さっさと忘れてしまいたいのに。
「ちょっとやばそうな人に目を付けられててね、逃げてた途中で転ぶわ、当たるわ。散々だったんだよ」
まあ、嘘は言ってない。
やばい男、ルキアノ・フェロッサーの罠にまんまとかかって、爆発に巻き込まれて、慌てて転移して逃げた事実にかわりはないし。概ね真実に近いよな。
とっさに一矢はそんな嘘を並び立てる。すると、4人は見事にそれを信じてしまった。
同情心も露にパイが一矢に言葉をかける。

「そうなんだ。大変だったんだね。変質者に狙われるなんて・・・」
「一矢って一瞬だと、女の子に見えるし、余計狙われやすいんだろうな〜」
シグマは腕を組み一人頷いている。
「気を付けてね。春は変質者が多いから」
アイリーンは心底不安気に、一矢を真摯な瞳で見つめている。
「何かあったら俺達を呼べよ。すぐにとんで行くからな!」
ケンはそう力説し、一矢の肩をばんばん叩く。
「え? あのさ・・・」
変質者って・・・。ええと、何を想像しているんだ? 敵はルキアノで、変質者なんてものじゃなくて・・・
「大丈夫よ。明日からは私達が一緒に登校してあげるから、安心して」
「はい?」
いきなりな話の展開についていけず、一矢は間抜けな声を出す。
「変質者対策よ。だってまた狙われたらどうするの?」
「どうするって・・・」
戦うしかないじゃないか。敵は反政府組織ギルガッソーの首魁、ルキアノだぞ。黙って見逃がしてくれるとは到底思えないし。

「何かあってからでは遅いのよ。常に用心しとかなくちゃ」
パイの真摯な意見にシグマは、ふむふむと頷きつつ一矢を諭す。
「変質者は諦めが悪いんだぞ。ストーカーになってたらどうするんだよ。毎日後をつけられたら気持ち悪いだろう?」
「え? ストーカー・・・?」
・・・まあ、ルキアノが僕を毎回しつこいぐらい狙うのも、ストーカーが入ってるっていえば、入ってるけど・・・。これを聞いたらルキアノ、ディアーナ星にプラズマ砲ぐらいぶち込みそうだな・・・。
宇宙戦艦標準装備の重火器を連想し、一矢は苦笑する。
「何だか凄く大袈裟だね。自分の事は自分で守れるし、そんなに心配される程、僕は弱く見えるのかな?」
これでも高位能力者なんだけどね・・・。
心の内で付け加え、軽く溜め息をつく。

「え・・・と」
「だって、ねえ・・・」
パイとアイリーンは顔を見合わせ、一矢の質疑をあっさりと肯定した。
「物凄く弱そうじゃない」
「うん。今まで喧嘩した事も、なさそう。」
二人のあまりといえばあまりな言葉に、一矢は無言で肩を落とした。
それはないだろ〜?と唸りつつ、ちらりとシグマとケンを見ると、二人共盛んに同意をしている。
・・・オイ。
突っ込みをいれつつ一矢は反論する。
「そんな事ないよ。僕はこれでも!」
「これでも?」
危うくSCA、しかも特殊戦略諜報部隊の名を出しかけ、うぐっと口を噤む。
言いたい、言いたいけど・・・言えない〜〜〜!!
あくまで秘密の事項だから、口に出して言う訳にはいかない。それどころか、感付かれるのも非常に不味い。ものすご〜く不味いのだ。
あうあう。と、一矢は言葉を濁し、無難な答えを返しておく。
「ご、護身術は習ってるんだからね」
一応嘘ではない。例え習っているのが、SCAの特殊な訓練だとしても、武術には違いがない。天と地程のレベルの差があるとしてもだ。

「そうなの? 全然そんな風には見えないよ」
「そうよね〜」
「うんうん。全然見えないぞ」
「一矢、女の子の前だからって見栄を張る事はないぞ〜」
4人の素朴な、かなり失礼な感想に一矢は苦笑するしかなかった。
初対面の人間にはよく言われる事だ。自分が特殊戦略諜報部隊、通称桜花部隊の指揮官だと告げると、誰も彼もが驚いてまじまじと一矢を見、次にその指揮能力を疑う。
まあ、らしくないのは今に始まった事ではないけどね。
それでもキャリアだけなら、なかなかのものなのだ。銀星十字(ぎんせいじゅうじ)勲章も、金星六華(きんせいろっか)勲章も貰っているのだ。
両方同時に持っている人間は、そんなにいないはずだ。が、そんな事情は話せる訳はない。だから・・・。
「本当に本当なんだって。随分小さい頃から習っているから、キャリアは長いんだよ」
そんな風に言ってみる。
「本当に?」
「うん」
こくんと頷くと4人はやや疑い深そうな顔をしていたが、それでも何とか納得したようだ。

「本当にいいの? 一緒に登校しなくて?」
「うん、平気だよ」
どっちかって言うと、学外までついて来られると困るんだよな〜。SCAに入る所を見られたら大変だし、うちの部隊の人間と遭遇してもまずいし。
それよりも何よりも、不測の事態がいつどこで起こるかわからないからな。あまり自分に関わらせない方が良い。所詮自分はこの子達とは違うのだから。
一矢は少し物悲しい思いを抱く。
あったかも知れない平穏な未来。それを選ばなかったのは過去の自分だ。
自分の選択を後悔するつもりは微塵もない。それでも、時々夢を見てしまう。自分が普通の人間に戻る夢を・・・。
らしくないな・・・。
自嘲気味に一矢はその感情を、胸の奥底に沈め込む。

「色々心配してくれてありがとう」
そう言い、一矢はにこっと笑って4人を順に見た。
「僕はあまりこの街に詳しくないから、知りたい事が沢山あるんだ。色々教えてくれると嬉しいな」
当分はここに住む事になるのだから、自分のテリトリーはきっちり把握しておく必要があるもんな〜。
治安上の理由からそんな事を尋ねてみる。
「色々って?」
「え〜と、色々」
・・・この星の軍事バランスとか政治状況、現地の危険地帯情報とか。住民にしかわからない事って結構あるもんだし。・・・って、そんなのこの子達が知ってる訳ないだろ〜!
「あ、っと。え〜と、ほら美味しい料理のお店とか、流行のスポットとか」
一矢は慌ててそう付け加える。
「私、お勧めのケーキ屋さんなら知ってるわ。あ、ケーキは甘い方だけど平気?」
「うん。大丈夫」
それこそ官給の糧食に比べれば、何だって美味しく食べれるしな。
あまりというか、味に頓着のない、出された物なら何でも食べてしまえる派の一矢はそんな事を考える。
「じゃあ後でこっそり教えてあげるね」
パイは微笑みながら、一矢にそう告げる。一矢は苦笑しながら、ただただ頷くのみだった。



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