2. 腰 痛

 腰痛は進化の過程で2足の直立歩行を選んだ人間の宿命であり、だれもが1度は経験するといわれています。

 一般に腰痛に対する鍼灸治療は鎮痛、除痛効果が高く広く行われますが、腰痛の原因疾患によっては他の医療と併用したり医師との連携が必要な疾患もみられます。ピュア通信では、このような観点から腰痛と鍼灸治療について何回かに分けて述べたいと思います。

<2足歩行と脊柱の変化>

 頭を持ち上げ前を見る。2本足で直立し両手を自由にする。そして歩き・走る。これらの運動を行うため私たちの脊柱は(横からみると)S字状に曲がることにより適応しています(図1)。それにともない筋肉も変化し、特に腹筋と背筋には脊柱の運動と安定性に対する機能が要求され、さらに背筋には直立時に前にある重心を引き起こしておくための緊張が求められます。

 脊柱は椎体とよばれる骨とその間の椎間板とよばれるクッションでできています。脊柱の後部には脊髄を入れる脊柱管があり、各椎体と椎体の間から運動神経や知覚神経、自律神経が出入りし脳・脊髄・全身を結んでいます。

<加齢がもたらすもの>

 主な腰痛の原因は運動不足や加齢による筋肉や椎間板の衰えです。椎間板の老化は20歳代後半から起こり始め、しだいに弾力性と高さを減じクッションとしての役割を失っていきます。これにともない脊柱も不安定になり椎体の変形へとすすんでいきます。日頃腰痛の方に適度な運動や腰痛体操がすすめられるのは、筋力を維持し椎間板や椎体をサポートするのが目的です。腹筋や背筋は腰椎の自然なコルセットといえるのです。また、肥満があると腰椎にかかる荷重が増えるとともに、前に突き出たお腹を支えるため前弯が増強され腰痛がおきますので、肥満予防にも心がけるべきです。妊娠後期の腰痛も同様の原因でおきます。ハイヒールも腰椎の前弯を増強させますから注意が必要です。

<腰痛の原因疾患>

 腰痛は腰椎を中心とする運動器の異常によりおこるものが最も多くみられます。しかし、腰痛の背景は極めて多彩であるといわれます。例えば心の病である仮面うつ病では肩こりとともに腰痛を訴える頻度が高く、心因性疾患でも腰痛は重要視されます。この他、婦人科や泌尿器疾患などの部分症状であったり初発症状であったりしますので、医師により早期に確実な診断を受けておく必要があります。

 腰痛の原因となる疾患は表1に示します。

表1腰痛の原因疾患の分類
1.先天性疾患  各種奇形 7.心因性 ヒステリー
2.腫瘍 原発性  脊髄・馬尾神経腫瘍 心身症
転移性  脊髄腫瘍 8.代謝性疾患 骨粗鬆症
3.炎症性疾患 強直性脊椎炎 骨軟化症
慢性関節リウマチ 糖尿病
4.感染症 脊椎カリエス 9.内臓疾患からの関連痛 呼吸器・胃腸疾患
椎間板炎 婦人科的疾患
化膿性脊椎炎 泌尿器科的疾患
5.外傷 圧迫骨折・棘突起/横突起骨折 血管性
腰部捻挫・打撲 10.その他 筋筋膜性腰痛
腰椎分離・すべり症 姿勢によるもの
6.変性性疾患 椎間板ヘルニア コンパートメント症候群
脊柱管狭窄症

(坪内俊二:医学のあゆみ180(9):571 ,1997より引用)

変形性脊椎症
椎間関節性腰痛
変性すべり・変性性側弯

<鍼灸治療と腰痛>

 鍼灸治療が最も適応するのは腰の筋肉や筋膜に由来する急性の腰痛症や腰椎の変形にもとずく慢性の腰痛症などです。手術を必要としない椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄では保存療法として効果がみられます。内臓疾患などからきている腰痛症では、その原因疾患が鍼灸に適応するかが問題になります。しかし、癌の末期など不治の病からきている腰痛でも、鎮痛を目的に鍼灸を行うことがありますので、鍼灸の先生に相談することをおすすめします。

<東洋医学的腰痛の分類>

 鍼灸では腰痛を現代医学的に捉えるとともに、東洋医学的な解釈を加えて治療の経穴(ツボ)をさぐります。図2は次のどのタイプの腰痛にでも使われる基本的な経穴です。市販されている温灸や指で押すなどして利用してください。

(1)寒湿による腰痛

 湿度の高い所での労働や住居する人に多くみられます。また、雨や汗で体が冷えたり寒冷や冷房などが原因になります。

 症状は腰の重だるさが特徴で、痛みは雨の日や冷やすことにより増強し、温めることで軽減します。

(2)腎虚による腰痛

 房事過多や慢性病あるいは老化による  ※「腎精」の不足が原因となります。

 症状は腰痛とともに腰や足の無力感があり、からだの疲労により増悪します。

(3)血おによる腰痛

 腰部捻挫などの外傷により腰の経絡(ツボの流れ)が滞ることが原因です。

 症状は腰に刺されるような痛み、固定性の痛みがあり、昼間より夜間に増強する傾向があります。

 

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※腎・精について

 鍼灸の古典といわれる黄帝内経素問・脉要精微論に「腰者腎之府。転揺不能腎将憊・・・」とあり、腰痛は「腎」と密接な関係があると記されています。この「腎」を東洋医学では「精を蔵し、生長・発育・生殖を主る」「水液を主る」「骨を主る」などとし、泌尿器としての腎臓とは異なった概念でとらえています。すなわち腎にある精(私たちがもともと持っている生命のエネルギーのことで、気と同様の意味)によって私たちの生長、発育、あるいは生殖がコントロールされ、体液の調節や骨の代謝とも関連するというものです。このようなことから東洋医学的「腎」は腎臓上部の副腎や下垂体−副腎系などの内分泌系と関連があるのではないかと考えられています。

 

2.腹圧性尿失禁         奥さん・お婆ちゃん   せきやくしゃみで尿がもれませんか        

 せきやくしゃみ、笑う、重い物を持つなどちょっとお腹に力が入っただけで尿がもれてしまう。このような症状は出産や更年期以後の女性に多くみられます。

 原因は骨盤内の臓器(膀胱、子宮など)を支える骨盤底筋という筋肉の衰えにあります。軽度なうちは骨盤底筋を強くするトレーニングでよくなりますから、次のトレーニングを始めてください。

  A.ボールを使ったトレーニング

  1. 膝を立て、腕は後ろ(楽な所)に置きまし ょう。
  2. 両膝でボールをはさみましょう。(ボールはテニスの軟球が適しています)
  3. 膝でボールに圧力をかけ内もも、肛門、腟と力を加えていきましょう。締めて4秒数え、ゆるめて4秒数えます。
  4. 呼吸は締める時に吐き、ゆるめる時に吸いましょう。(腹式呼吸を加えて行うとよりよい効果が現れます)

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B.スパインヒップリフト

 このトレーニングは腰に不安のある人や腰を痛めてリハビリをしておられる方にも安心な動きです。臀部や大腿後部、そして骨盤底筋に刺激を与えることができます。

 1.仰向けに寝て膝を立てます。腕は楽な所に置きましょう。

 2.図のようにヒップを持ち上げ4秒休めて、4秒数えます。

 3.呼吸は上げる時に吐き、ゆるめながら吸いましょう。

  ※ どちらのトレーニングも無理のない回数で毎日続けましょう。少しづつ回数を増やして根気よく続けてくださいね。トレーニングの効果が現れるには半年近くかかります。 

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