第436回定期演奏会 <2010.3.18-19>

指揮:下野竜也

ヴァイオリン:ルノー・カプソン

ベートーヴェン作曲 劇音楽「アテネの廃墟」序曲
モーツァルト作曲 ヴァイオリン協奏曲第3番 ト長調 K.216
ブルックナー作曲 交響曲第1番 ハ短調 (ウィーン稿)

BRUCKNER(1824-1896) 下野竜也(1969-)

下野竜也の指揮でブルックナーが聴けるのは大きな楽しみの一つです。。
前回2年前の0番の名演が記憶に新しいので、今回の第1番に期待するところ大!
朝比奈のCDを聴いてみるとこの曲はやはり後期の交響曲群に比べると大分違うけれど、スケルツォはまさにブルックナーのもの。
朝比奈のもとで研究生として大阪フィルに在籍していた下野さんは今や読売日本交響楽団の正指揮者。
東京で、いや全国的にその名が知れ渡るようになり、我らが大阪から育った指揮者としてどんどん成長してもらい、いつかまた大フィルに帰ってきてくれることを首を長くして待ってます。

この人の音楽の一番の特徴は、音の流れが非常にスムーズで聴いていてすこぶる気持ちが良い。
ただ流暢な音の繋がりだけだと、単調で退屈なものになりがちですが彼の音楽はそういうものではなくて、綺麗な音の流れでありながら音楽の起伏がしっかりとあり、決して飽きることがない。
時にはテンポも変わり、決めるべきときはオーケストラを高揚させるのですが、その動きが本当に自然な動きとして納得できるのです。
この日のブルックナーの演奏もそういう心地よさを味わわせてくれました。
ブルックナーの交響曲第1番といえば当然初期の作品。
でも今回演奏されたのは《ウィーン稿》ということで、自作の改作を頻繁に行ったこの作曲家は、本当はどの版が良いのかという問題が常に付きまとう。
この第1番が完成したのは1866年ころなのに、この《ウィーン稿》に変更したのは1891年。
1891年といえばあの大作の第8交響曲がすでに完成しており、次の第九番に力を入れてる時期にあたるので、このウィーン稿はほとんど最晩年の改作ということになる。
二つの版が実際どの程度違うのかはわからないのでなんともいえませんが、今回聞いた限りではブルックナーらしさを感じさせる部分もあるけれど(特にスケルツォ)、後年の作品のスケールにはまだまだ程遠いように思います。
でも今回下野さんの指揮で聴いて思ったのは、時間がかかっても良いから次の機会に第2番をぜひ取り上げてもらいたいということ。
下野のブルックナーを聴くなら5番以降のものとは思いますが、それはもっと時間が経ってからでも良いと思います。
作曲家が若いときに作った作品はやはり若い人が演奏するほうがいいのでは?
大家が採り上げればそれなりの解釈で聴かせてくれるのでしょうが、若い人でなくては表現できないものも間違いなくあるでしょうから、彼にはそういう部分を期待したいと思います。

この日の演奏ではもう一つ大きな収穫がありました。
モーツァルトのヴァイオリン協奏曲を弾いたルノー・カプソン。
曲目がモーツァルトの第5番から3番に変更になったけど、そんなことは問題ではなかった。
美しいヴァイオリンの音が本当に心を和ませてくれたのだ。
どこにも力が入ってないのにつややかな音色がホールを満たしてくれて、これぞモーツァルトの“音の遊び”を楽しませてもらった。
大フィルが独奏のカプソンにもう少し寄り添うように演奏してくれたらもっともっと楽しい夢のひと時になったはずで、やはり日本のオーケストラがモーツァルトの愉悦の音を奏でるようになるまでにもう少し時間がかかるのかな・・・・・