The Sweet Pain.6












 まるで奪うかのような激しいキス。
 智史に飲み込まれてしまうのではないかと思う程のそれを、あきのは混乱したままで、必死に受け止める。
 やがて彼の舌に口腔内を翻弄されて、あきのの膝から力が抜けた。
 智史はあきのの両脇をがっちりと抱えてから、唇を離す。
 至近距離の智史の瞳は恐いくらい真摯で、明確な欲望を漲らせていた。
「智、史・・・」
「・・・人の気も知らねえで、よくそんなことが言えるな」
 智史はあきのを凝視したまま、その膝裏に手を入れて、ぐいっと抱き上げた。
「きゃ!」
「俺がどんな思いで自制してたかなんて、全く考えてねぇだろ。限界なんてとっくに超えてる。それでも、お前を傷つけたくなかったから、俺はずっと・・・」
 智史はあきのを抱き上げたまま、2階の彼女の部屋へと入る。扉の際のスイッチを入れて、明かりをつけた。
 そして、彼女を半ば放り投げるかのようにベッドへと下す。
 普段にはない乱暴ともいえる行動に、あきのはさすがに怯えた。
「智史・・・私」
「もう遅い」
 智史が再び覆いかぶさってくる。
 唇が重ねられ、ニットの上から身体のラインを撫でられる。
 あきのはびくり、と身体を震わせた。
 乱暴なようでやさしい手つきに、怯えはやや収まった。
 それでも、胸の膨らみに触れられると、いたたまれないような気持ちになる。
 嫌なのではない。ただ、少し恐いだけだ。
 智史の手がニットの裾から中へと潜り込んでくるにあたって、あきのは彼の身体を押しのけようとした。
「無駄だ」
 唇を離して、智史はあきのの両手を頭の上に纏めて押さえつけ、彼女の抵抗を封じた。
「智史!」
「もう止められねえ。火をつけたのはお前だ。それに、手を出されたかったんだろ? 俺に」
「そう、だけど・・・」
「もう黙れ」
 智史はまた、唇を重ねて深いキスを与える。そして、あきのの下着をぐい、と押し上げて、直接膨らみに触れた。
 ぴくっ、とあきのの肩が震える。
「・・・相変わらず、柔らかいな・・・」
 ぼそり、と感嘆の声で囁く智史に、あきのは頬を染めた。
「・・・覚えてるの? そんなの・・・」
「当たり前だろ。・・・ずっと、触れたかった・・・」
 もう3年も前の話だ。たった一度だけ、智史に触れられたのは。
 思えば、あの少し後に、総一郎と会って『嫁に出すまでは清い関係でいるように』と言われた。
 それからずっと、智史は自制し続けてくれていたのだ。あきのを大切にしてくれているから。
「智史・・・手、離して? お願い」
 あきのは彼を抱きしめたいと思った。この、ばんざいをさせられているような恰好では、それが出来ない。
「・・・逃がさねえぞ?」
「うん、判ってる。ただ・・・抱きしめたいの、私も」
「あきの・・・」
 この行為をあきのが受け入れようとしてくれているのを知り、智史は微かな笑みを浮かべ、彼女の手首を解放した。
 自由になった両手を、あきのは智史の背に回す。
「好き・・・智史」
「俺もだ」
 もう一度、今度はやさしいキスを交わしながら、智史はあきのの膨らみに触れ、その頂をそっと摘まむ。
「んっ」
 あきのが身体を震わせた。
 智史は更に頂を撫でたり捩ったりして刺激する。
「んっ、んんっ」
 そこが硬く尖ってきたところで、智史はあきのから唇を離した。
「ああんっ」
 普段とは全く違う、甘い声。
 それは、予想以上に智史の欲望を煽り立てた。
 智史はもう片方の膨らみと頂にも、同じように刺激を与えてやる。
「ああっ、あっ、あうっ」
 あきのはイヤイヤをするように首を振りながら、身体を震わせた。
 淫らに聞こえる声を出してしまう自分が恥ずかしいのに、与えられる感覚は明らかに心地よく、触れられている胸だけでなく、背筋や下腹部にまで響くように感じる。
 これが、快感というものなのか。
 こんなに甘美なものだったなんて、今まで知らなかった。
「あきの・・・」
 普段よりも掠れたような智史の囁きがまた、あきのの気持ちを高めていく。
「智、史・・・ああっ、あん・・・」
 気がつくと、ニットとその下に着ていたカットソーは胸の上の辺りまで押し上げられて、ふたつの膨らみが智史の目に晒されている。
 智史は右の頂に口づけ、それを含んで転がした。
「はああっ、ああん、ああっ」
 指で触れられているのとはまた違った心地よさに、あきのは声を抑えることなど出来なかった。
 触れることに素直に反応を返してくれるあきのに気を良くして、智史は彼女の大腿部にも手を這わせた。
 膝丈のAラインのスカートの裾から中へと手を滑らせると、あきのは目を見開いた。
「嫌っ! やめて!」
 拒絶するように身体を固くしたあきのだが、智史の手も、頂への刺激も止まらない。
 タイツの上から大腿やお尻を撫でられているうちに、頂への快感と相まって、だんだん気持ちよくなってきた。
 そうすると、身体の余計な力も抜け落ちる。
 智史が大腿を撫でる手を内側に移動させようとした時。
 あきののベッドのサイドテーブルに置かれている子機がけたたましい着信音を鳴らし始めた。
 智史もあきのも動きを止める。
 程なく、それは留守電に切り替わり、階下にある親機にメッセージが吹き込まれる。
 部屋の扉をオープンにしたままだったせいで、その声が聞こえてきた。
『あきの、私だ。まだ帰っていないのか? 後30分程で帰宅する。これから携帯にもかける』
「げっ」
「嘘!」
 電話の主は総一郎だ。
 2人とも一気に酔いが醒めたかのような心地になり、智史はあきのから離れるように身を起こし、彼女もまた、衣服の乱れを整えた。
 その間に、あきのの携帯電話の着信音が響く。
 一度切れてもまた鳴り、また切れて鳴る、を3度ほど繰り返し。
 4度目が鳴った時、智史は大きな溜息をついて、階下を指した。
「出た方がいいぞ、きっと」
「・・・うん」
 あきのも溜息をついて、階段を駆け下り、それを取った。
「お父さん、どうしたの。・・・ああ、ちゃんと家に帰って来てるわよ、もう8時過ぎてるし。・・・うん、判ってる」
 そんな言葉を聞きながら、智史も階下に降りてきて、再び溜息をついた。
 でも、これで良かったのかもしれない。
 総一郎の横槍が入らなかったら、おそらく、もっと先まで、それこそ最後まで進んで、あきのをずたずたに傷つけていたかもしれない。
 避妊の準備すら出来ていない、一時の激情に駆られての行為は、後悔しか齎さないだろう。
 あきのにとっても、己にとってもの初めてを、そんなものにはしたくないから。
「・・・じゃあ、また後でね」
 通話を切ると、あきのも大きな溜息をついた。
「お父さんったら・・・いつまでも私を子ども扱いなんだから・・・」
「・・・いや。今夜は助かったよ、親父さんのお蔭で。・・・大丈夫か、あきの」
 智史が少しだけ眉根を寄せて聞いてくる。
「大丈夫って、何が?」
「・・・酔い、冷めたな?」
「・・・うん、冷めた。・・・ごめんね、智史。私・・・疑ったりして」
「いや、それは・・・まあ、お互い様、だろ。けど、俺は・・・お前以外の女は、やっぱ、どうでもいいんだよな、今でも。先輩や仲間や身内は、それなりに大事だが、そいつらは性別が女ってだけで、俺にとっては女じゃねえから」
 真摯な言葉に、あきのの心が甘く疼いた。









 

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