131.新規事業からの撤退理由、「本業回帰」とは?

物販以外の事業を小売業が行う理由
GMS型小売業は、物販以外にさまざまの事業を行っている企業が多い。
例えば、カード事業、カルチュアー事業、旅行事業などさまざまである。ではなぜそのような事業を行うのか? 突き詰めた議論がなされている企業はそう多くはあるまいと思う。
しかし考えられる理由は、主に次の二つである。
1.事業の多角化により、収益拡大を求める。
2.物販への波及効果を狙って行う。

「事業の多角化」を狙って行う場合は、行き着くところその事業を物販本体事業から独立させ、そのビジネス自体で収益確保を目標にするケースが多い。ダイエーや西武百貨店のOMCカード事業、セゾンカード事業がその代表例である。
「本体への波及効果」狙いの事業は、その事業で多少の赤字が出ても、本体への売り上げ増、利益増が上回ればまずは良しという考え方といえる。この種の事業は極めて多いと思われる。
しかし不幸なのは、2のタイプの事業であっても、その事業の位置づけが社内で明確にされないまま、事業企画自体が収益性がないということで否定されたり、また存続を認める条件として収益を求められたりして無理な経営を強いられるというようなことが発生する。

「本業回帰」と称して新規事業から撤退する”まやかし”
最悪なのは、「本業回帰」と称してそうした事業をテナント化したり、廃業したりすることだ。
そもそも自分の会社は商圏地域の顧客に対してどういう存在の企業になろうとしているのかの「哲学」や「戦略」がなくてはならない。そういうものがしっかりあるのであれば、たとえそういう事業から撤退するにしても「本業回帰」というような言い方はしないはずで、それは”まやかし”だ。

どのような企業哲学に基づき、どのような戦略に基づき、どのようなビジネスモデルで取り組もうとしたのか? そしてそれは何が上手く行き、何が上手く行かなかったのかが不明確なまま、「本業回帰」という理由付けで事業撤退することはいわば屁理屈なのだ。

物販という本丸事業は、つまるところ「いいものをどこよりも安く」販売できる企業であれば客の支持は得られる。それを徹底して追及しているのは例えばWALMARTのような企業だ。これはこれで立派な戦略である。しかし日本の大手企業は物販以外も含めてもう少し多様な顧客支持基盤を得たいと思っている企業が多い。そのために物販以外の事業にも進出し、多様な顧客接点と企業支持を狙っている。
しかし自分の企業の存在理由につき、突き詰めた検討や自覚がないまま手を出すことも多い。それがふらつく原因にもなっている。

新規事業担当スタッフももっと理論武装を!
新規事業を起案する人、あるいはその事業を既にになっている人も、なぜこの事業を行うべきなのかにつき、コンセプトとともにその経済性や本体への波及効果についてしっかりと理論武装しておく必要がある。
全ての責任をトップに委ねてしまうわけには行かない。事業を担っているスタッフが何のためにこの事業を運営しているのかが充分理解できていないままでは、本来に事業目的を追求することすらおぼつかない。

新規事業をめぐってはご都合主義でその存続が危うくされることの多い小売業。顧客原点の観点はこのような企業では育たない。