130.NHKドラマ「どんと晴れ」から

老舗旅館とホテルのサービス観の違い
NHK朝の連続ドラマ「どんと晴れ」で、老舗の女将がこんな趣旨のことを言っていたのは興味深かった。
  • 「老舗旅館とホテルでは、客に対するサービスの考え方は違う」
  • 「ホテルは顧客の要望を出来るだけ適えようとするのがサービスだと考えている」
  • 「老舗旅館(舞台となっている旅館)は、長年培ってきた自分のおもてなし流儀をすべて受け入れていただいて、その上で客に評価してもらう」
つまり、老舗旅館というものは、客に変に媚びず、自分流をすべて客に受け入れてもらう代わりに、接客、料理、何をとってもハイレベルで顧客満足を与えるだけのものを用意しているというのだ。そしてそれは伝統と格式のなかで裏打ちされたひとつの哲学的立場(「おもてなしのこころ」)として顧客の評価を獲得しようというものでもある。

この二つの考え方はどちらが正しいという言うものではなく、どちらもまともな考え方である。
ただ、ビジネスとして考えた場合、規模を拡大しやすいのはホテルビジネスであり、老舗旅館は比較的少数の固定顧客に対しての高品質サービスビジネスだということも出来よう。

高級ブテイックと量販店の違い
物販の世界でも、似たようなことがある。
高級有名ブランド商品を売る高級ブテイックのように、自らの商品につきこだわりと自己主張を伴ったファッション商品を販売する店は、老舗旅館のスタンスに極めて近い。類似性のあまりない、高品質高額商品を丁寧な接客で比較的限られたブランド支持者に販売してビジネスを成り立たせるのは、それはそれで立派な商売だ。

他方で、リーズナブルな品質と価格の商品を大量に多くの顧客に販売して支持を得ようというのは量販店や百貨店のビジネスであり、ホテルのサービス感覚に近い。そしてそれはマス顧客を前提にしている。

ホテルと量販店の差
しかしホテルと量販店の違いがある。
ホテルはその設備を別とすれば、形のないサービスが販売対象であり、それはホテル従業員によって提供される。そのため顧客の要望やわがままに対応することがいやが上にでも求められるため、顧客そのものを日常的に意識せざるを得ないビジネスであった。

それに対し、特に量販店はその歴史的発足時以来、商品さへ支持されれば販売実績が上げられ、顧客の直接的な要望やサービス希望は二次的なものと考えられてきた時期が長く続いてきた。これが長く「顧客中心主義」が生まれてこなかった理由のひとつになっていると考えられる。

WALMARTのように商品と価格の力で顧客の支持を得られる企業ならまだいいが、いまだに商品競争力がまだ一番と考えているような多くの企業はホテルの顧客サービス観には達していない。顧客を正面から意識したCRM(Customer Relationship Management)やマーケテイングの重要性に着目して活動している企業(イギリスのTESCOなどのように)が日本でも次世代小売業の有力企業となろう。