126.理解できない「コンクール」(その2)
       生鮮ロス率半減コンクール

「生鮮ロス率半減コンクール」の経緯
生鮮のロス率削減はどのSMでも重要課題である。固定客を中心に1日の商売を完結してしまう町の魚屋さんと違い、閉店30分前に来る顧客に対しても出来るだけ需要に答えられることが求められるスーパーにとって、永遠の課題かもしれない。

元居た会社で10年以上も前のことだったが生鮮・日配部門の「ロス半減コンクール」というのがあった。大型店および問題の店舗には1日だけ本社の部課長が派遣され、事情聴取もすることになった。当然私もある店に赴いていた。
このコンクールだけで会社もロスが減るとは会社も考えてはいなかった。ただロス削減が当時は会社の焦眉の課題であり、なんと社員の意識を変えようという取り組みの一環であったことは間違いない。
ただこの時のコンクールの取り組み内容は大いに問題であった。

生鮮ロスは店によって取り組み方が違うはずなのに・・・
このコンクール期間を通じて、その前月までのロス率実績の半分の率を目標に、上位店舗を表彰するというものであった。付帯事項として売上高予算達成率は100%以上達成が条件になっていた。
このようなロス率半減コンクールは売上予算100%達成が一応歯止めになっているので理屈に合っているように思われるが、売場には単純に「ロス率は低ければ低いほどよい」という部分だけが意識されるようになり、企画者側の意図から外れた行動をする売場が多分多く現れたと思われる。

私は個別の店の置かれた状況などを勘案してロス率問題に取り組むべきと思う。
いろいろな店の状況を考えてみよう。

(1)売上が伸び盛りの店で、ロス率がほぼ予算以下の店の場合は、ロス率半減の号令をかけることは、利益拡大という点から見て逆効果の恐れが大きい。ロス率は半分に減らせという必要性はない。むしろ売上をもっと伸ばすことで結果としてロス率が下がることも考えられる。

(2)売上伸び率も高いがロス率も予算を大きく上回っているような店は、ロス率半減(低減)コンクールの対象となろう。

(3)新しい競合店の出現などで、売上予算達成率が低下しロス率が増大している店に対しては、ロス率問題を言う前に、相手と徹底して戦って相手を蹴落とすのか、それとも守りに入って利益重視で行くのかの政策決定が必要だ。ロス対策はその結果として出てくるものだろう。

(4)上記以外の状況下にある店舗では、売上予算と粗利予算達成率の状況を見てはじめてロス率が問題になる。売上予算達成率がほぼ100%前後でロス率が高い店はロス率削減が問題になる。売上予算達成率が目標から程遠い店はロス率を言う前に売上予算未達成の原因把握と対策が優先する。

私の赴いた店でのこと
私が当時のコンクールで赴いた店の日配部門の主任にこんな質問をした。
「あなたは発注をするときに、『ひょっとしたら商品が余るかもしれない』と思って発注するか、それとも『ひょっとしたら足りない』と思って発注するのか、どちらですか?」
その主任の部門は売上予算達成率がここ数ヶ月95%前後で昨年対比でも98%という状況の店舗であった。その主任の答えは「後者です」であった。「なぜですか?」と尋ねたら、「最近はロス率のことをやかましく言われるので・・・」という返事であった。案の定・・・という感じだった。
私はこうアドバイスした。「あなたの部門は外部環境に大きな変化があまりないにもかかわらず、売上予算達成率がやや低下している。そんな状況で現在ロス率が特別に高いというほどでもないのだから、ロスを減らそうとしたら売上も粗利も減る可能性がある。むしろ売上予算が行かない原因と対策を考える方が優先だ」と。
主任君は多分、「この人は何をいっているんだろう。ロス率削減コンクールの指導に来たのではないのか?」といぶかしげに思ったことだろう。

ロス率問題は根が深い問題だ。いくつも枝がある。単純な「ロス率半減」運動では問題が見えないばかりか、悪影響もある。さすがにこのような取組はそれ以後行われなかったようだ。