119.日米、「従業員満足」をめぐる空気の差
●アメリカ流通業のマネジメント事情、ある断面
日米の“経済指標”上の好景気が続いている。
アメリカは、ITバブル崩壊、9.11テロ、イラク戦争と5年前と比べると景気に影があるが、それでもまだ活力を残している
数年前、ネット上の情報を見ていたとき、次のようなことが話題になっていた。
アメリカの流通業では、従業員の量と質の確保、向上が問題となっているといわれている。好景気のため従業員が条件のいいところへ転職するなどの労働移動が頻繁になり、企業側は従業員の教育訓練などにコストもかかり、顧客サービスレベルの維持向上に支障をきたしていることが問題とされている。
こうした事情からアメリカでは流通業に限らず、日本の終身雇用制を評価する動きも一部であるようだ。日本の企業が従業員を長く抱え、企業に対する忠誠心の培養とともに、一定レベル以上の技能やサービスレベルが維持され、それが企業の無形の戦力になっていることを評価してのことと思われる。
●「働きやすい会社」ランキング
そうした観点からアメリカ企業の多くが従業員対策として「従業員満足」というテーマに取り組む空気がまだあることは確かのようだ。
FORTUNE誌の“100 BEST COMPANIES TO WORK FOR”などの選定企画もこれらの空気を反映している。
参考までに、この発表は下記のところで公開されている。
http://money.cnn.com/magazines/fortune/bestcompanies/full_list/
この企画で、2006年の第2位にはWegmans Food Marketsがランクし、大企業部門では第1位となっている。
またおなじみのNordstromが46位、飲食のStarbucksが29位などとなっており、100位のNikeなども含めても流通業は100位以内には5社ほど存在する。
●日本の空気はコスト削減優先
他方、日本の空気はどうだろうか?
日本も経済指標では好況と言われているが、少なくとも流通業の重要な顧客である勤労個人消費者レベルでは、規制緩和に端を発した雇用構造の変化が購買力を押し下げたままである。
“ワーキング・プア”と呼ばれる、労働機会はあるが所得水準が生活保護世帯以下といわれる世帯がNHKの報道番組では400万世帯以上ともいわれると報道。
生活保護世帯が100万世帯を突破。
合計500万世帯以上(全世帯の約10%)が貧困世帯
世帯平均所得は、全世帯平均で見ても平成6年の664万円が、平成15年では580万円とこの年までは下降一方。
企業の非正規雇用が増え、勤労者の所得水準が向上せず、団塊世代の大量リターヤーもあいまって、企業に技術やサービスのノウハウ伝承にも支障が出かねない状況。いまだ多くの企業が自社利益確保優先に走り、流通業をめぐる環境は非常に厳しいままである。
このような状況下で終身雇用制は崩れつつあり、労働市場の流動性は高まったものの、低所得者を多く生み出してしまった。日本の企業の多くは、競争に生き残るために“内向き”の努力に汲々としており、消費者としての従業員や労働者の生活水準向上に目を向ける余裕がない。
今、日本は「従業員満足」よりもコスト削減という空気が極めて強い。アメリカとの空気の違いは相当ある。まともなマネジメントが育っていないのではないかと心配だ。