112.不振喫茶店の例に学ぶ
●不振店舗の評判とオーナーの嘆き
とある商業施設の会合でこんな会話を眼にした。
テナントである喫茶店店主のこんな発言があった。
その喫茶店は、世界のコーヒー豆を集め、コーヒー豆の焙煎も浅煎りから深煎りまで顧客が選べる、一見本格的なコーヒーショップに見えた。自分も二度そこへ行ってみたがあまりいい感じがしなかったし、なぜか評判がよくない。
- 開店以来客が少なく経営が苦しい。
- 母店の集客力がないのではないか?
- 自分でも努力しなくてはと思い、チラシを単独で打ったが、コスト回収するところまで行っていない。
- (ちなみに他の飲食テナント店は好調であることを添えておこう)
評判はおおむね下記の通りである。
などというものでった。
- 全席禁煙で、喫煙者がくつろげない。
- 店内がモノトーンで安っぽく見える。
- 肝心のコーヒーは、バリエーションがあるのに、その特徴などをウエイトレスが説明するなりの行為がない。
- コーヒーが“薄い”という声がある。
- 軽食がケーキとトーストしかなく、それも充実しているとはいえない。
- マスターや店員の声が小さく、感じのよい応対とはいえない。
どうもこういう声がオーナーのところへ届いていないらしい。
後日母店側の責任者が上記のような声があると縷々伝えたそうだが、すべてに反論され、聞く耳をあまりも持たれなかったと聞いている。
例えば、「コーヒーが“薄い”のは、これが本当の味わい方だと自分が思っているからだ」とか、「禁煙席を作らないのはこれが時代の流れで、ウチは女性客が多く当然だと思っている」などの答えが返された、などだそうだ。
●「受容型」商売と「開拓型」商売
商品やサービスで顧客の支持を得ようとする場合、次の二つがある。
(1)マーケテイング調査などで顧客ニーズを把握し、それに合わせていくやり方。
(2)販売者の自己主張を顧客に"説得"し、顧客がそれを受け入れるやり方。
(1)は「受容型」商売であり、(2)は「開拓型」商売ともいえる。
(2)は下手をすれば一人よがりになることもあるが、ひとたび支持を受ければ安定した基盤を築くことが出来る。
この喫茶店主は、どういうスタイルの商売を目指そうとしているのか?
もし(2)のスタイルを柱に、コーヒーの味などを“売り”にしたいのであれば、コーヒー豆産地によって味がどう違うのか、また豆の煎り方によって味がどう変わるのか、などを顧客に念入りに説明、説得し、その代償としてやや高いコーヒー代を納得してもらう努力が必要である。
しかし現実は、このコーヒー店に入ると店員がこのコーヒー店のメニューを持ってきてそのメニューをまず読めとばかりにそれを置く。そのメニューには確かに何がしかのコーヒーの説明があるが、はっきり言って多くの客はそれを読んでもよくは分からない。店員さんは忙しそうにしているだけで、顧客にコーヒーの説明をするような教育はしていないようだ。
これでは金は取れない。
●「開拓型」商売には顧客に対するさまざまな「説得」努力が必要
誰もがそこそこ知っているコーヒーについて、多くの店とは違うこだわりを販売しようというのであれば、そのこだわりを説明しなければなかなか納得してはもらえない。その「説明」はいろいろなかたちで、例えば店員による説明だけでなく、店の作り、店内の展示物やデイスプレーなどによっていくつもの方法で工夫がなされなければならない。
顧客に自分の主張を受け入れてもらう「開拓型」商品展開はかなりの努力が必要である。しかしこのお店はその努力が不足しているように私には思える。これも経営者のマネジメント能力ではないか。自分のスタンスを一方的に主張しても簡単には客は応じてはくれないものだ。
ポイント: 開拓型ビジネスはひとつ間違うと「独りよがり」になる。