108.消費者金融論議から思うこと
●消費者金融会社批判
大手消費者金融会社の取立てが自殺者を生んでニュースに取り上げられ、これがきっかけで、やさしいテレビCMとは異なる会社実態への批判とともに、出資法と利息制限法の矛盾見直しが始まった。
私自身も在職時代にカード事業も担当し、消費者金融も事業の一部として手がけていただけに関心がある。流通業がカード事業を営むなかで、キャッシング事業を私はやや控えめな取り組み事業と考えていた。自社の店舗で物販商品をお買い上げいただくなかでキャッシング事業を営む「節度」を意識せざるを得なかったからである。したがって最高でも20万円以内の貸付にとどめていたが、それでも貸出残高はピーク時で100億円近くになり、純益面でも会社にかなり貢献していた。
お金が商品という事業はやや特殊であり、ひとつ間違うと本来人の幸福のために事業をするという側面は吹っ飛んでしまう。借りる、貸すときのえびす顔、返す、返させるときの苦渋と鬼の顔、と対照的な場面になりがちでもある。
●キャッシング利用客のタイプ分け
制度論も大事だが、キャッシングというニーズはどのようにして発生するのだろうか、その実態把握があまり出来ていないと在職時に感じていた。
一般論では、
@生活困窮者のニーズ、
A浪費タイプの人のニーズ、
B一時的に生活手元資金不足で発生するニーズ
の3つが考えられる。しかし個人のプライバシー問題もあり、全体としての実態はなかなか分からない。
このうちBのニーズは健全であり、確かにあるものの、これはキャッシング常連顧客ではなく、事業者としてはリスクも低いが、大きなボリュームにはならないのではないか?
Aのニーズは本来本人責任の問題である。このような人には、消費者教育が必要だ。しかしこういうタイプの人はなかなか簡単には生活習慣が治らない。他方でずるがしこい人も多い。返済を滞りながらもベンツに乗っているというような人もいる。
@の困窮者の方は、延滞になるケースは実際多い。ただ「困窮」といってもその幅はさまざまで、顧客宅を訪れてみると、ごく普通の(みすぼらしくない)家であり、身なりも含めてごく普通に見える人が多く、外から見ただけでは分からないことが多い。
だが、キャッシング利用客全体で見て顧客類型がどのタイプにどれくらいいて、返済状況がどうなのかはあまり正確には分かっていない。したがって消費者金融会社が言っている、「現行利息制限法のみで規制すると消費者金融からもはじかれた人がヤミ金融に流れる」という論理が成り立つのかどうかは分からないが、その可能性も否定し切れはしない。
●キャッシング事業でも顧客を知る必要性は同じ
キャッシング事業でも現行法の制度改善の必要性は否定しないが、顧客のことはなかなか分かってはいない。顧客実態の把握抜きにして制度改善を論じても上手くいくのであろうか?
分かっているのは毎月の返済について85〜90%の顧客は返済をきちんと期日内に行っていること。それ以外の顧客は滞りがちで、最終的には3〜4%前後の顧客が貸し倒れ処理になること、長期延滞客は回収交渉の結果により生活状況が顧客プロフィルが明らかになることぐらいである。
余談であるが、私の在職時代にこんなキャッシング利用客がいてびっくりした。
ひとつは個人でヤミ金を営んでいる人が資金源のひとつに私の会社でのキャッシング利用をしていたことである。その人は毎月きちんと返済していた。
こんな人がいるんだと感心したものであった。
もうひとつはれっきとした有力地元銀行員の人が何人も当社でキャッシング利用をしていたことだ。 さすがに延滞者は誰もいなかったが、やはり自分の勤めている銀行での借金は昇進やいろんなことで差し障りがあると感じてわざわざ当社のキャッシングを利用しているのかなと思ったものである。
顧客をよく知る、把握するという必要性は消費者金融事業でも、その改革でも同じはずである。