101.「顧客中心主義」理論が育ってこなかった3つの理由(2)
●「組織の壁」
顧客中心主義理論が育ってこなかった2番目の理由は、「組織の壁」である。
それは大きく分けて二つある。ひとつは過去方引きずってきた組織風土の壁、もうひとつは現場が見えない本社組織の壁だ。
●軍隊的組織風土の壁
量販店は約50年くらい前、事業欲旺盛で勉強したオーナーが自ら資金調達、人材採用、出店開発などに陣頭指揮を採り、競争を勝ち抜いて今の生き残り企業となった。
このような企業では卓越した経営者の判断で企業成長がなされた部分が大きく、組織もトップの指示を実現または実行する部隊として機能し、トップは他方でカリスマ性を持った。そこで出来上がっていった組織は「軍隊型」組織であった。
やがてトップやそのすぐ下にいた人たちはボツボツとリタイヤーしていっているが、一旦急速に肥大化した組織が醸成した風土は容易には変わらない。
企業組織のピラミッド構造性はいまだ強く、下は上の顔色を見る(これはどこでも同じといえば同じかもしれない)。
例えば予算管理を見てみるとよく分かる。
数字で攻め、出来なかったときの評価は厳しい。そのこと自体は間違ってはいないが、しかし予算はある意味で「約束」である。約束であるなら「合意」が必要だが、それを煮詰めるプロセスはどうかすると一方的な押し付けによっている。量販店の多くは予算は「約束」ではなく、ほとんど「命令」に近いのではなかろうか。
●現実と組織の乖離
量販店企業の多くは、店舗部門と商品部門、それを支える販促部門や管理分という構造になっている。そして本社組織と店舗組織が対峙する。力関係的には本社と店舗では本社の方が強い企業の方が圧倒的に多い。
このような状況下では、本来顧客に最も近い店舗の側に権限も責任も配分していかねば顧客満足は得にくいにもかかわらず、店が機動的に柔軟に動けなかったりすることが多い。
「店舗は本社の出先」的な考えがいつの間にか浸透し、本社と店舗との乖離が顕在化し、本社組織が顧客から遠くなっていっている。
また顧客視点の戦略やマーケッテイングといったテーマは従来の組織では扱いにくいテーマである。商品部門は縦割りに分かれ、顧客視点でのマーケテイングやサービスを戦略テーマとしようとすると既存組織とぶつかりやすいか、「自分の仕事ではない」ということになりがちだ。
つまり新しいテーマには既存の本社組織では対応が出来ないのである。
●“新しい酒は、新しい皮袋に”
軍隊的組織風土、伝統的な量販店組織である店舗部門と商品部門からなる本社組織、「店舗は本社の出先」的な”古い皮袋(組織)”では、CRMや顧客戦略といった“新しい酒(テーマ)”を入れると発酵してすぐに皮袋が破れてしまう。
「顧客中心主義」をテーマとし、それを追求していこうとすれば、トップの明快な方針と共に、組織のありようにもメスを入れていくことが必要だ。