98.相変わらず「ポイント10倍セール」の怪(その2)
●ポイント高倍率セールの背景
量販店各社がよく行う「ポイントn倍セール」は当然事前に社内でその効果を検討しているはずである。その結果を踏まえて思いとどまるところは中止したり、あるいはn倍のnの数値を下げて実施したりしていると思われる。
単純にポイント「10倍」セールの功罪をここでは少し考えてみよう。
ポイント10倍とか5倍とかといった高倍率セールは、主に次のような場合に実施される。
Aの場合、高額季節商品の見切り時期直前に実施すれば、後で売れなくて値下げして販売するよりましだという判断が働く。もう一点はカード会員募集がこれにより進む点だ。少し合理性があるとすればこれらの点だけだ。
- 比較的高額な衣料品などの販売促進を主眼に置いて、ついでに食品部門への集客をもかねて実施する場合。
- ビッグな催事で、多少利益を度外視しても競合店に有効な対抗策をとらせないようにしたい場合。
- 競合店がやるので対抗上(止むを得ず?)実施する場合。
A、B、Cいずれの場合も、仮に思い通り売れたとしても収支結果は厳しいものになることは眼に見えている。
ポイント10倍セールの場合、粗利率が30%あったとしてもラフに計算すればカード提示率が80%の場合売上が36%以上、粗利率が25%なら売上が48%以上増えないといつもどおりの粗利が確保できないことになる。
これは大変な数値なので、後は仕入先の一時的な一層の原価引き下げや協賛金等の措置でまかなうことになりがちである。
- この他に、発行したポイントは必ずしもすべてが換金などの権利行使が行われるわけではない。この歩留まりを考慮に入れると、上記の「いつもどおりの粗利確保」できる必要な売上高アップ率は実際にはもう少し低いところに落ち着くという判断も行われる。
- しかしそれはいわば“よこしまな”判断だ。
●ポイント高倍率セールの罪
仮に一歩譲って長い眼で顧客維持が図れ、必要な利益が確保できたとしても、ポイント高倍率セールには次のような問題が残る。
第1は、あまりにも販促主導が強くて、商品部や店舗の、品揃え、陳列や接客の細かな販売努力がかすみがちになり、その努力を軽く見ることになりかねないことだ。
例えば売れる商品、売れない商品の動きを見てしっかりフォローするようなきめ細かな管理は馬鹿らしくなり、売り場でのモラルが低下し、そして売り場が荒れていく。
第2に、顧客から見て商品価格の信頼性が揺らぎかねないことだ。
ポイント10倍セールは何でも10%割引に近く、顧客は半分喜びながら、半分は価格の正当性を疑ってかかるようになる。
第3に、ポイント10倍、5倍といったセールは収支構造にひずみがでるので、それを緩和すべく、仕入先に“協力”を求めることになる可能性が高い。これは仕入先との正常な取引関係を損ないかねない要因となる。
売り場、顧客、仕入先すべてに何らかの波紋を投げかけるこのようなセールは長い目で見れば小売業の自虐行為である。しかし前年売上実績クリヤを迫られるとポイント高倍率セールは“麻薬”と化していく。
ポイントはせいぜい3倍までとし、ご挨拶の「しるし」程度で収め、あとは販売戦略や商品部、店の努力中心に補わなければならないというのが私の持論である。
ポイント: ポイント10倍のような高倍率セールは、投網式販促と同じで、それ以上に悪影響が大きい。