97.相変わらず「ポイント10倍」セールの怪

ポイント10倍セールの怪
歳末売り出し、その企業の全社的な大きな売り出し時にポイントカードを発行している企業はよく「ポイント10倍セール」とか「ポイント5倍セール」とかをやるのは珍しいことではなくなった。このような一律値引きの変形セールをIYさへ実施しているのは私には理解できないことだ。
もちろんこのようなセールは売り上げ増を狙ってやっていることだが、それはどういう論理で売上が増えるのか? またそれは企業の対顧客戦略としてどういう意味があるのかを理解してやっているのか? などを考えると疑問なしとしないのだ。

普段の顧客分布
ポイントカードを実施している企業では大体どこの店でもカードが普及してくるとSMやGMS業態の店舗の場合、次のようなことになる。
  • カードの提示率は客数ベースで75〜80%、売上高ベースで80〜85%を占める。
  • カード提示客への売上高を100とすると、多少前後はあるがおおむねどの店でも次のような数値になることは経験則である。
    • 上位10%の顧客で売上の約40%
    • 上位20%の顧客で売上の約60%
    • 上位30%の顧客で売上の約75%
    • 上位50%の顧客で売上の約90%
この数値はアメリカやヨーロッパの小売でもSM中心の企業であれば大体同じであり、5%以上の差はない。
上位10%の顧客はその店の超優良顧客であり、その店の業績向上のもっとも大きな鍵を握っている。少し広げて上位30%の顧客がその店舗の業績を大きく支えている。これはポイントカードを実施している企業はほとんど把握しているはずだ。だから顧客戦略に一歩踏み込んでいる企業は上位30%の顧客の維持拡大に向けた戦略を取ろうとする。上位30%の顧客といえども間違いなく何かの理由で「出入り」があり、その出入りを少なくするための努力施策も実施する。

ところがポイント10倍セールのような大きな「販促」を実施すると売上は何もしない状態と比べて売上が20〜30%増えるのが普通だ。しかしそれはどのレベルの客が売り上げ増にどれくらい寄与してくれた結果売上が増えるのかを把握しているのだろうかと思う。

ビッグ催事での顧客動向
ポイント10倍セールのような大きい販促実施すると、普段あまり来ない顧客が来て買い物をしてくれる結果、セールス期間の売上が増えるという理解をする人がいる。しかし、事実は違う。
詳しいデータを出すことは控えるが、こういうことだ。
  • ビッグな販促では確かに普段買い物が少ない顧客も多くの買い上げをするがその絶対額は売り上げ増加分の一部でしかない。
  • 売り上げ増加分の大半は、普段の上位顧客がより多くのお買い上げを行うことによって成り立っている。
  • 普段上位10%に属する顧客はビッグ催事でも最も多くの購入額を示す。その増加購入額ももっとも多い。
  • 普段のおのおの上位20%、30%層の顧客はビッグ催事期間中、上位10%層の顧客に次ぐ購入額があり、購入額増加分もそれに比例して多い。
  • つまり、ビッグ催事時でも、普段の上記顧客ほどお買い上げを増やすのであり、下位顧客の購入額増加は売り上げ増加のほんの一部分しかない。
普段は下位50%以下に属する顧客で、ビッグ催事時期にたまたま多額の購入した客がビッグ催事後上位顧客に変わるかといえば、それはほとんどない。下位顧客は大半がやはり下位顧客である。
もっとも、下位顧客も何らかの事情で上位顧客に転ずることがある。しかしその理由はこういったビッグ催事が引き金ということはないといってよい。

変わっていないGMS企業
食品中心のSMやGMS業態の店舗では他方で、3ヶ月、6ヶ月、1年単位の比較的長期で見てみると、上位層から脱落する顧客がいる一方で、上位顧客に転ずる顧客もいる。FSPやCRMに取り組んでいない小売業はこの実態をほとんど把握していない。把握していないから、顧客の不満も掴んでいない。

実はこれらのコア顧客の動向がその店や企業の動向の鍵を握っているのである。これらコア顧客のニーズを科学的に探り、これらの顧客に支持される店作りが課題なのに、IYやダイエーのみならず、ポイントカードを発行している企業の多くがポイント10倍セールなどと何も考えずやっているようでは企業の進歩はない。
ここにFSPやCRM戦略の根源がある。
GMS企業はもっと勉強をといいたい。


ポイント: ポイントN倍セールは思考停止のバラマキ販促だ!