93.ロッテ・バレンタイン監督のマネジメント
ロッテがプロ野球日本シリーズを制した。私は阪神だけでなく、50年来のロッテファンである。というのは、約50年前の私の少年時代にはじめて見たプロ野球試合の一方が「高橋ユニオンズ」というチームであり、そのチームが紆余曲折があって今のロッテであるからである。今回はロッテを応援した。
ロッテを応援した理由は、古いファンだということだけでなく、ロッテの今のチームカラーが好きで、しかもこのチームのファンや選手を大事にする空気は小売業にとっても非常に参考になるからである。
●ファンの位置づけ(顧客との関係作り)
ロッテはファンを「ともに戦うパートナー」と位置づけ、その象徴として背番号26番のユニホームを「選手」としてダッグアウトにユニホームを吊るしている。その他の施策ともあいまって昨年からフアンを大きく増やしているようだ。
このような発想はサッカーのJリーグにはあるがプロ野球では総じて希薄である。どのチームもお金を払ってくれるファンは大事にしてはいるというものの、球団とファンは別という考えでしかない。巨人は強かったしスターがいたからファンが長くついたが、弱くなると離れて行っている。球団とファンが一体になるような努力が不足していたからに他ならない。
小売業でロッテのこのような発想にやや近いと思われるのが、イオンの「副店長」制度であろう。副店長は顧客から選ばれ、店の経営の一部に発言権を持ち、「ともに経営に参加」しているそうだ。
私は在職中にあるプランで顧客代表役員制度を提案していたが、やはり同じような発想である。残念ながらまだ実現していない。
●選手の位置づけ(モチベーション・マネジメント)
ロッテでは選手は「ファミリー」の一員とされている。この一見日本的とも思える考えは実はアメリカの優良企業でも多く採られている発想である。
バレンタイン監督は、例えば選手に子供さんが誕生すると、「我々のファミリーがまた増えました」と言ってみんなに紹介し、祝福するそうだ。
監督は日本の体育会系的なキャラではなく、失敗しても「次はうまくやろう」と励まし、選手のモチベーション維持高揚に気を使う。また選手に対してあれこれと細かい指示はせず、選手が自発的に考え、最善の結果を出す行動を促すよう指導するのが監督の仕事という考え方だ。「命令、服従」だけの関係とは異なり、まさにモチベーションマネジメントであり、エンパワーメント思想そのものだ。
日本シリーズでは2軍生活の多かったベテラン選手を、「ベテランの力が必要」ということで2名ほどベンチ入りさせている。結局彼らは出番はなかったのだが、それでも監督の「配慮?」に感激しているという。選手は少なくとも気持ちの世界では消耗品扱いされてはいない。
こういう選手の使い方は企業のトップから管理職者まで学ぶべきことが多い。
●データ+感性の重要性(データマネジメント)
ロッテの選手の打撃に多くのTV解説者が舌を巻いていた。
「ロッテの選手はきわどいボールを自信を持って見送る。そしてここと言うときは思い切って振ってくる。まるで次の球が分かっているみたいだ」などと。
ロッテにはデータ分析の専門家がいて、投手の配給などの傾向を分析し、選手に伝えているそうだ。選手はそれをベースに自分の感性を加えてバッターボックスに立つという。どのような内容のものかは分からないが、勘ではなくデータを重視しながらこれに加えて選手の感性を活かすということらしい。
これも企業経営の観点と共通ではないか。
●バレンタイン監督の哲学や姿勢は流通業のお手本になる
これまでプロ野球で日本一になったチームの監督の考えは何人もの人が本などになり、多くのサラリーマンに紹介されてきたと思う。川上哲治、広岡達郎、野村克也、星野仙一などなど。確かに監督はいろいろのタイプがあっていいし、これらの人は皆優れた指導者なのであろう。しかしこの人たちはいずれも個性の強い人たちであり、独特の世界を築いた人たちではなかったか?
バレンタイン監督はこれらの人たちとは明らかに違う。小売業経営及び内部マネジメントの世界でCRMや顧客中心主義思想を野球の世界で実行しているように私には見える。今経営やマネジメント思想で世界的に支持を得つつあるものに近い考え方である。小売業はバレンタイン監督に学ぶものが多いのではないかと思う。
(追記)
得てして「勝てば官軍」、バレンタイン監督の報道も美談に仕立て上げられている可能性もある。多少割り引いて聞かなくてはならないかもしれない。しかしかっこよかったし、少し魅かれた。
ポイント: バレンタイン監督は、小売業が学ぶべき企業風土作りやマネジメント哲学を持っている。