92.顧客ニーズの「勝手読み」
●バリヤーフリー、間違いだらけの常識
三好春樹、吉眞孝司著「バリヤフリーは間違っている 介護と建築のプロが考えた『生活リハビリ』住宅」という本を読んだ。
この本は、老人のための住宅や施設のバリヤフリーの考え方について、いかに健常者が自分勝手な想像に基づいて施設作りや、改造をやっているかを示し、真に求めるべきは老人の続けたきた生活に近いものの継続援助であること、またそのための住宅改造であり施設であるべきことを説いている。
そこには例えばこんなことが書かれている。
この本は他方で、こんなことも言っている。
- 施設のお風呂は洗い場と湯船の間に段差のない“バリヤフリー”構造で、しかも湯船はゆったりと手足が伸ばせる広いもの。誰もがこのようなお風呂がいいと信じているが実はこのお風呂で死者がでている。足腰の悪い老人がしゃがみこんで湯船に出入りする姿勢の負担はきわめて大きい。
- 自宅の風呂を老人のためにホテルのように身体を伸ばして湯船につかる風呂にする人もいるが、これは湯船に入って足を伸ばしたとたん頭が湯に浸かってしまい、おぼれそうにもなる。介護をする人も極めてやりにくい。
- 一番いいのは、家庭の1.5人用の、縁が40センチの高さのものだ。湯船は背中側が斜めにはなっていないシンプルなものがいい。足を伸ばしても頭が沈まないよう足先が踏ん張れる。湯船の両側に腰掛になるスペースを作ると、介護をする人がそこへ一旦腰掛けさせて次の行動が取れる。
- 車椅子は段差に強い。16センチくらいまでの段差なら後輪の大きさが吸収してくれて、ちょっとしたコツで昇っていける。あるいは後ろから押しやすい。
- スロープは危ない。車椅子でバックで降りるのは高齢者にとっては非常に怖い。昇るのも自力では高齢者は出来ない。脳卒中の人はスロープを歩きにくく、階段を使う人が多い。
- よく分かっていないケアマネージャーが、補助金の出る住宅改造でスロープをつけるプランを立てたりするが、これは不幸な出会いだ。
機械を使って高齢者を入浴させる、本当にこれしか方法がないのか?
介護が必要な老人はベッドを使う、本当にそれでいいのか?畳と布団ではいけないのか?。
などなど可能な限りできるだけ今まで生活してきた方法、またはそれに近い方法でお年寄りを生活させてあげることの重要性をも説いている。
●顧客ニーズの理解には「洞察」も必要
そういえばこんな話を聞いたことがある。
自宅をすべてバリヤフリーにしたが、それでも転んで怪我をした人がいる。分厚い絨毯の縁に躓いて怪我をしたという話だ。絨毯の縁は盲点だったという。
この話も、本に書かれた事例もある意味で顧客ニーズの「勝手読み」である。
(なお、自宅には適度な段差はあってもかまわない。むしろ適度な段差ならそれを乗り越える注意を払い、機能訓練にもなるということを聞いた)。
顧客にも知識を与え、また顧客が言わなくとも顧客の求めるものは本当は何なのか
を理解するには、洞察といえるほどの「求める姿勢」が必要である。物販と違って形のないサービスを提供する事業の場合はなおさらである。ここでも「顧客の視点」欠如をこの本は指摘しているといえる。この分野では、顧客である老人の表情、何気ない言葉、このなかに要介護高齢者の本当に求めているものがあり、それを必死に知ろうとしなければ到達し得ない世界だと思う。
ポイント: 介護の必要な老人はなかなかものをいわない。そこから勝手な「読み」が始まる。サービスの世界の顧客ニーズの理解は「洞察」といえるほどの求める姿勢が必要だ。