87.ネット上への内部告発事件
●ネット上への内部告発事件
YAHOO株価欄に「掲示板」というのがある。上場企業各社について投稿規約を守るという前提で誰でも登録さへすれば書き込み時は匿名(ハンドルネーム)でほぼ自由に書き込みが出来るの。ご存知の方も多いはずだ。
ネット世界での不特定多数が書き込みをする「掲示板」は「2チャンネル」がその最たる例だが、まともな意見ばかりではなく、誹謗中傷、噂・風説、恨みつらみなども加わり、まるで闇鍋の世界になりやすい。
何年か前、某流通業のYAHOO掲示板が大変にぎわったことがあった。
社内から内部告発としか思えないような会社幹部の数々の「不正」やシステムトラブルの告発、社内人脈の詳しい状況説明、出店戦略の問題点指摘、経営状況の説明などが続々投稿された。それらの投稿内容の真偽は分からないが、文面はいい加減な内容ではなく、極めてまじめで、事例を細かく説明し、説得力のある文章であったことを記憶している(今もその頃の掲示板内容はそのままYAHOOに残っている)。
当然社内でその投稿に対し、従業員と思しき人から驚きの声、応援の声、非難の声などが次々に投稿され、社外の人を含め蜂の巣をつついたような状況になった。
半年くらいこういう状況が続いたが、ある日突然に告発者の投稿が出なくなった。社内で犯人探しがすでに行われ、どうやらその告発者は会社から左遷または降格処分を受けたらしいことが社員らしい人から投稿で説明されていた。
当時、このことが理由かどうかは分からないが、この企業の株価も大きく下がった。
●コミュニケーション・クライシス
問題はなぜこういうことが起きたかである。
この会社はこの事件が起きる数年前から業績建て直しのため大規模なリストラを断行し、多くの管理職者を中心に事実上の指名解雇で退職者を出すようなことがあった。多分荒廃した社内空気がそうさせたのであろうと思わせるものであった。
こういう場合、「なぜ社内解決しようとしないのか?」という問いは愚問である。そんなことで解決するのならこんな事態にはならない。それほど深刻な社内事情があったということだろう。
問題の根本は正論がいいづらい社内のコミュニケーション風土にある。それは「コミュニケーション・クライシス」ともいうべき状況であり、本質的にはトップの責任である。
こんな疑問が当然わいてくる。社員も広義の「顧客」であり、社員に対して会社は説明責任を負っている。
- トップは現場の空気や声なき声が分かっているだろうか?
- 組織風土を良くするための努力をどれだけしているのだろうか?
- 会社の考え方を徹底するためにどれだけ情報公開や対話をしているだろうか?
流通業はアメリカでも日本でも従業員を「部品」と見る価値観は他業界以上に強かったと思う。それに対する反省気運は生まれている。
しかし、生き残りを賭けた切羽詰った状況ではきれい事では済まされない。だからリストラも行なわれる。だがそこに企業トップのギリギリの人間観を見ることも出来る。
「俺はこんな会社で働いていたのか」と思って退職する人はその会社ではものを買わないし、他人にもよくは言わない。
今この会社は業績もよく、株価も高い。しかし過去のこの問題をどう克服してきたのかは知らない。「喉元過ぎれば・・・」であってはならない。
ポイント: ネット上の内部告発も多くの場合社内のコミュニケーション・クライシスの表れだ。公開の場で行われる内部告発であり、影響は大きい。告発者はいつでも月光仮面にもテロリストにもなれる。