86.看護、介護の世界で起きようとしていること
●看護、介護の世界での深刻な人手不足予測
ある方から「日経ものづくり」8月号の、「省力化新時代 働く人が消えるなら」という特集について内容を教えていただいた。人口減少時代に向かうなかで、働く人が減少し、どんな省力化技術が注目されているかの紹介であった。
私は今介護の世界に多少関係しているが、この世界での省力化は基本的に望めない。
今年2005年の段階で65歳以上の人口はざっと2500万人である(そのうち、75歳以上の方は1100万人)。このうち414万人が介護保険給付を受けている。
2015年には65歳以上人口は3300万人(75歳以上人口は1600万人)、2025年には65歳以上人口は3500万人(75歳以上人口は2000万人)と予想されている。
介護保険のお世話になるのは75歳以上の方が圧倒的に多いため、今後10年間でも要介護の方は少なく見ても50%以上増加する。
こうなったときに深刻な看護師、介護関係者不足が予測され、これらは機械ではほとんど省力化が不可能な世界である。ただでさへ就業人口が減少するのに、看護師、介護士不足を解消することはきわめて困難とされる。
この解決に外国人、特にフィリッピンの看護師、介護士受け入れが両国政府の合意の下で進もうとしている。
●フィリッピン人看護師・介護士受け入れへ
両国政府が昨年11月に合意した内容では、受け入れ条件は次のようになっている。
非常に高いハードルであり、知識や技能レベルでは日本人と同等かそれ以上を求められていると理解されているようである。
- 看護師は、フィリッピンで4年生看護師大学を卒業し、フィリッピンの看護師国家試験に合格することが日本側への入国条件となる。
- 介護士はフィリッピンの4年制大学を卒業後6ヶ月の技能研修を終了するか、もしくは4年生看護大学卒業が入国条件となる。
- さらに看護師、介護士とも日本入国後、6ヶ月の日本語教育を受け、日本の国家試験(日本人と同じ試験を受験)に合格してはじめて日本国内で就労できる。
●問題は受け入れ側の団体・施設や顧客の反応
問題は受入国である日本のほうかもしれない。
ひとつは、日本看護協会や日本介護福祉士会が自分たちの仕事機会と競合することである。両団体とも外国人の受け入れには反対もしくは消極的である。外国人の受け入れに伴う現場の難しさなど必ずしも利己的とはいえない反対理由もある。
もうひとつはやはり外国人看護や介護サービスを受ける患者や要介護者の「心の受け入れ」準備の問題である。
日本人にはこころのどこかで日本人以外の「アジア人軽視」の気持ちのある人が多い。技能や知識が優れていても受け入れを拒否するか、避けたいと思う人が少なからずいるのではないかということである。
それでも「顧客は常に正しい」が、しかしまた顧客の気持ちも変わるものだ。
外国人看護師、介護士たちが努力して顧客の心を開くことに成功し、ひとたび受け入れられるようになったとき、日本人看護師、介護士があぐらをかいていれば、いつの間にか「外国人看護師、介護士のほうがいい」ということにもなりかねない。
ついでながら、フィリッピン人看護師の名誉のためにいえば、彼(女)達はアメリカなどですでに実力を評価されている。看護大学では英語で教育を受けており、プライドも高く、日本の看護師と比べて見劣りしないそうだ。
ポイント: 顧客の心を開き、顧客との「関係作り」が重要であることは流通業のみならず、サービス業ではすべて共通である。