80.経産省「消費者志向優良企業」表彰について

「消費者志向優良企業」表彰制度
「日本産業協会」というのがあるのをはじめて知った。この団体誕生の大元は大正時代にさかのぼるが、昭和55年に当時の通産省の後押しで今の形と名称になったとのことである。ここの主な事業内容は次のようなものという説明がある。
  1. 消費生活アドバイザー試験実施機関
  2. (1の試験に向けた)通信講座の実施
  3. 消費者志向優良企業等の経済産業大臣への推薦
  4. 消費者志向体制整備、促進のための支援
  5. (他は省略)
3の事業については同協会のホームページに次のような説明がある。
  • 通商産業省(現:経済産業省)において、平成2年に消費者志向優良企業表彰制度を、さらに平成11年度に個人・グループを対象にした表彰制度を創設したことに伴い、その実施機関として、対象企業 ならびに個人・グループの募集、大臣表彰にふさわしい企業及び個人・グループの選定、推薦等の事業を行っています。
  • http://www.nissankyo.or.jp/nsk/ns110.html
この表彰制度は大まかには次のような手順で決まるようだ。
  1. 大臣表彰を受けようとする企業の応募または推薦書類提出
  2. 日本産業協会内での内部審査と推薦
  3. 経済産業省による表彰
これにより過去にどのような企業が表彰を受けたか、表彰理由も含めて同協会ホームページ内で公開されている(なお、経産省のHP内でもH16年度表彰企業と表彰理由が示されている)。

これまでの製造業、流通業表彰企業
  • <製造業>
  • 花王株式会社        平成2年度
    ソニー株式会社       平成3年度
    株式会社ちふれ化粧品   平成4年度
    味の素株式会社       平成5年度
    オタフクソース株式会社   平成6年度
    シャープ株式会社      平成7年度
    本田技研工業株式会社  平成7年度
    松下電器産業株式会社  平成8年度
    ライオン株式会社      平成8年度
    ミサワホーム株式会社   平成9年度
    富士ゼロックス株式会社  平成9年度
    株式会社資生堂       平成10年度
    サントリー株式会社     平成11年度
    松下電工株式会社      平成11年度
    日本ビクター株式会社    平成12年度
    富士写真フィルム株式会社 平成12年度
    積水化学工業株式会社   平成13年度
    森永乳業株式会社      平成13年度
    グンゼ株式会社        平成14年度
    株式会社資生堂       平成15年度
    プロクター・アンド・ギャンブル・ファー・イースト・インク 平成15年度
    株式会社ふくや        平成15年度
    パナソニック コミュニケーションズ株式会社 平成16年度

    <流通業>
    株式会社ダイエー      平成2年度
    株式会社イトーヨーカ堂   平成4年度
    ジャスコ株式会社       平成5年度
    株式会社西友         平成6年度
    株式会社ニチイ(マイカル)  平成7年度
    キャノン販売株式会社    平成8年度
    イズミヤ株式会社      平成9年度
    株式会社マルエツ      平成11年度
表彰の権威は?!
この表彰は権威がないと思った。
製造業はともかく、流通業の表彰は大半がナショナルチエーンの表彰たらいまわしの感がある。そしてなぜか平成12年度以降は流通業の表彰企業はない。
権威のない理由は、
  1. 表彰応募に当たって、応募企業は「消費者志向優良企業等選定に関する調査(質問)表」に回答し提出することになっている。この調査票内容は、経営方針、苦情窓口制度、商品品質等の管理体制、環境問題への取り組み、消費者ニーズの把握や情報提供体制、コンプライアンス体制につき合計32の回答項目がある。これらは抽象的回答可能なものが多く、理論的で明快な指標がない。
  2. 審査の過程が公開されていない。書類審査だけなのか、厳しい確認がなされているかも定かでない。審査員も不明。
  3. 抽象的質問だけでなく、その企業の顧客による実際的評価も不可欠だがそれもない。受賞理由も示されてはいるが、制度的なことが多く、顧客や世間が実際にその企業を「消費者志向優良企業」と評価するのはさらに他のモノサシが必要である。
表彰企業の表彰理由が公開されてはいるが、内容を見てみてその程度の説明では「優良」と判定される説得力に乏しい。企業が本当に消費者志向の優良企業かどうかは、制度的なことだけでなく、社員の意識や企業文化の状態診断、顧客側の実際評価などが含まれていなければならない。アメリカのACSI(American Customer Satisfuction Index)の方がずっと理論的である。経済産業省もこんな表彰をもっと見直すか、さもなくば止めるべきである。


ポイント: 権威の低い(ない)表彰は質向上の動機付けにはならない。