69.「企業は人なり」の井戸和男氏講演から

先日ある会合で滋賀県彦根市出身の井戸和男氏の講演を聴くことができた。
この方は長く西武百貨店の人事部を担当され、専務を務めて退職されてその後もいろいろ活躍されている著名な方である。
講演の題目は「企業は人なり」ということで、おおよその察しはついていたが、二つ印象に残った話があったので披露しよう。

採用面接について気を使っていること
西武百貨店時代に数え切れないくらい採用面接をされている。その際の気配りについてこんな話をされていた。
  • 面接に来る人は、面接時を除けば西武百貨店の大事なお客様である。
  • 採用されなかったからといってその後は西武百貨店のお客様になっていただけないようになってしまったら大変困る。
  • この人は採用は無理だなと思う人がいると、私はできるだけその人にいろいろな質問を行い、その人に多くの時間を取るようにしている。
  • その人が不採用通知を受けても、「西武百貨店は自分に関心を払ってくれていた。その私が不採用になったのは他に自分よりもっと優秀な人がいたからだ」と納得してもらえるようにという配慮である。
  • 世の中にははじめから採用する気のない人に面接に来てもらって、いい加減な質問しかせずに不採用通知を出す企業がある(特に女子学生に対して)。
  • 私は不採用になっても納得感を残し、その後も西武百貨店の大事な顧客として気持ちが離れることのないよう心がけている。
人事部だけということではないが、なかでも特に人事部の人はこういう感性が大事だなと感じ入った。

大阪船場経営者の経営観
大阪船場の経営者は、「儲かってまっか?」、「ぼちぼちですわ」という挨拶が有名だが、井戸氏によるとこんな初対面挨拶もあるそうだ。
「お宅の会社何年続いてまんねん?」
この質問の価値観は氏によればこういうことだそうだ。
  • 会社は大きいことではなく、長く続いていることが大事だ。
  • 会社が長く続くには、顧客や取引先を大事にし、「信用」を持続することが不可欠だ。そして困ったときには助けたり助けられたりの関係がそれを裏打ちする。
  • また会社が持続するためには、従業員のモチベーションを高め、人材育成が必須条件だ。
    いわゆる「丁稚あがり」というのは船場ではほめ言葉だが、それは人材育成の結果だといえる。
長く業績を維持して会社が続いている会社はこれらの優れたマネジメントの結果といえるのではないか。何も船場の中小企業特有の課題ではない。


ポイント: 特に何というほどのことはないが、人に接する感性、企業持続のための信用や人材育成の基本的意味を井戸氏は指摘している。