67.「儲けはあとからついてくる」という根底に・・・
会社の後輩から薦められた本がある。片岡勝著「儲けはあとからついてくる」(日本経済新聞社刊、2002年2月発行)という本である。著者の片岡氏は1946年の生まれで、故市川房江氏の下で市民活動に関わり、後に管直人氏を政治家に担ぎ出した人物だそうである。
得意の斜め読みでザーッと速読してみた。後輩が「読め」と言った理由が大体理解できた。この本の論点を少し追ってみよう。
●「コミュニケーションビジネス」とは?
彼の主張は「コミュニテイービジネス」がテーマの中心だ。こうした考え方で商店街再生、IT関連地域ビジネス、環境・リサイクル関連ビジネス、高齢者支援ビジネスなどをサポートされてきた。
- 日本経済の閉塞状態を抜け出す策の主役として「コミュニテイービジネス」、つまり地域における問題解決事業を主張したい。そしてすでに実践に移している。
- コミュニテイービジネスは利益をあげるが、それが目的ではなく社会を良くしていくことが目的だ。
- このビジネスに成功するには、今社会で必要とされているもの、解決を求められている問題が何かをいち早く的確につかみ、それに一生懸命応えることだ。
- 利潤は追求するものではなく、社会的に意義があるかどうかを追及し、それを優先していけば利潤は後からついてくる。
- コミュニテイービジネスは地域経営を対象とする。地域経営は行政だけに期待は出来ない。地域経営に住民が主体的に取り組み、行政も参加する「コンソーシアム」をつくり、税金の使い方も決めるのが望ましい。行政のやれないことをやる。
●片岡氏の価値観
そしてこういうビジネスを行うにあたっての彼の社会観、人間観、仕事観、組織観はこうだ。
更にいえば、彼が求めている社会像は次の言葉に集約できる。
- 大企業のほとんどは人に仕える組織だ。上司という「人」に仕えて働く。そうしているうちに人の顔色を伺い、保身を考え、思考能力を無くしていく。
- 問題解決型事業は「事」に仕える、つまり「仕事」をする人の集団によって行われるべきである。
- しかしビジネスのリスクを明確に取るために株式会社による運営とする。
- コミュニテイビジネスでの働き方は、働くことが楽しく、自分が向上し、しかも社会にも貢献すると思いながら働ける会社にしたい。
- 著者の経営する会社では、命令服従はない、給料は自分で決める、徹底した情報公開、という民主主義とほぼ同じ原則で運営されている。
この問題の本質は、組織観を従来のピラミッド型からネットワーク型に名実共に自己変革できるかどうかである。
- 「私の描く新しい社会像は『持ち寄り地域モデル』という言葉に集約できる。個々人が考える価値に向かって、それぞれが、個性的、自発的、創造的に生き、働き、暮らすことが出来るような社会である」
フラットな組織であれば、個々人の役割が見え、命令服従ではなく協力連携とリーダーシップの両立、情報開示の徹底が縦糸として必要になり、自発性、自己責任、公正な評価などの要素が横糸となる。そしてそれは私がこのホームページでテーマとしているものと共通のものだ。
●Mスポーツセンターのマネジメントはこれと同じ発想
このような価値観は理想であって現実化はむつかしいと思う人が多いのではないか。そんなことはない。
私の友人でスイミングスクールの経営責任者をしているH氏は片岡氏のこの社会観、組織観に近い運営を実際に行っている。例えばパート社員スタッフは次のような運営がなされている。
彼のスイミングスクールではスタッフは大半がパート社員だ。パート社員は自分の持ち時間をあるていど自由に持ち寄り、自分の働き甲斐などの目標を追究しながら、他方企業はビジネスとして立派に成功させている。
- 彼の職場ではスイミングスクールのスタッフは誰でも応募できる。しかしすぐにそれで給料が払われるわけではない。一定の職能レベルに達し、しかもスクールスタッフに入って初めて給料が支払われる。それまでは無給である代わりに自分の楽しみを兼ねて施設を無料で利用できる。スタッフが就労できない日は他の人に交替して勤務してもらうが、予備軍のスタッフは沢山いるので交代要員に困ることはない。一般スタッフは時間で拘束はしない。
スタッフの職能評価は細かく決められており、ひとつひとつのスキルが出来るかどうかは本人との話し合いのなかで評価される。またその話し合いの中で次の目標が決められる。
彼の会社が今年度予算作成後、顧客向けにこんなタイトルの小冊子を提供している。
“2005年度予算編成に向けて 『誰に何を語りかけたいか』”
そしてこの小冊子の前文にH氏がこんなことを書いている。
この後に実に50人くらいの正社員、パート社員のそれぞれお客様に語りかけたいことが作文として切々として綴られている。その“想い”はなかなか“重い”。
- 「当社では毎年正社員を中心に全社員が知恵を持ち寄って年間予算を作成します。その際の理想は個人目標と会社目標が限りなく重なり合うことです。予算作成に当たってはまず個人の思いを持ち寄ります。それを編集したものが「誰に何を語りかけたいか」です。毎年1回編集して会員の皆様に配布させていただいています。
それぞれがそれぞれの個人的事情を持ち、個人的目標を持って、会社の一員として予算を考え2005年度一年間を過ごします。会員の皆様方にそれを共有していただき、ご支援ご協力いただきたいと考えています。ご一読の後それぞれの社員にお声をかけて頂ければ幸いです」
私からすればコミュニテイービジネス云々もさることながら、それ以前の社会観、人間観、組織観がもっとも大きな決め手であると思う。
片岡氏もH氏も、どうすれば「儲けはあとからついてくる」かよく知っている。
ポイント: ビジネスをやる前に経営の前提となる社会観、人間観、組織観が問われる。これが人々(顧客、社員)の共感を得られれば「儲けはあとからついてくる」