61.誰が誰に対して“ロイヤル”?

顧客は僕(しもべ)か、企業が僕か?
我々も簡単に“ロイヤルカスタマー”を作るとか簡単に言ってきたが、これは誰が誰に対して“ロイヤル(忠実)”かというと、顧客が販売企業に“忠実”ということであり、何かおかしい。販売企業がお客様に“忠実”であるべきなのに、と思っていたら案の定同じことを考えている人もいた。
アメリカのCRM関連サイトにCRMGURU.comというのがあり、2004年11月16日発表の小論文で下記のタイトルのものがあった。
そしてこの小論文の書き出しは次のように始まっている。
  • 顧客ロイヤリテイーは死んでいる。まさにそうだ。
  • これについて考えてみよう: なぜあなたが企業にロイヤルであるべきなのか?企業があなたにロイヤルであるべきでないのか?
この論文の本来の趣旨は、
  • 顧客に対する報償(Rewards)だけではひいきやロイヤリテイーを得ることは出来ない。新たなモチベーションとして顧客とのコミュニケーションが必要だ・・・・・・。
ということで特にたいしたことは書いていないのだが。
ただ我々も含めて、顧客を自社に忠実たらしめようと自分本位に考えていることの問題を指摘していると考えれば、それはあたっていると言える。

CRMからCMRへ
もう少し理論的レベルでCRMから“CMR”への進化を説く人が現れてきた。CRM(Customer Relationship Management: 顧客との関係作りマネジメント)はいまや全産業を通じてのテーマであるが、CRMという言葉が関係する範囲が極めて広く、経営思想、ソフトウエアー、マーケテイングなどの広い関係者がこれについて論ずる
そのことについてここでは深入りしないが、いきおいCRMの理解についてバラツキが生まれ、誤解も生じる
CRMが本来「顧客中心主義」に立脚した考え方であるにもかかわらず、結果的に企業の側の論理の域を出ないという状況が生まれている。

こうした状況を反省してか、最近ではCRMではなく、CMRつまりCustomer Managed Relationship、「顧客がマネジする関係作り」ということをいう考え方が現れてきた。CMRを最初に唱えた人がこの人かどうかは分からないが、Frederic Newellという人でその本は一昨年発表された "Why CRM Doesn't Work, How to Win By Letting Customers Manage the Relationships(Bloomberg Press,2003)"である。
解説が目的ではないので詳細は省くが、彼の論点は次に様な指摘から展開される。
  • CRMが行き詰まっている大きな理由のひとつは、CRMの理解がばらばらなことによる。
  • CRMの代表的なロイヤリテイープログラムは上位顧客を優遇するが、すべてのVIP顧客の扱いは同じである。(上位顧客を優遇するニーズは企業側にあって顧客側にはない、と言いたいのだろう)。
  • 上位顧客のさまざまなニーズは何も理解していない。
CRMのレベルではまだ企業が主体で顧客が主体になっていないということを言いたかったのである。
まだまだ我々流通業にいる人間は、「ロイヤリテイーの高い顧客を作る」というような言い方をするとき、自分中心にものごとを考え、結果的に顧客を僕(しもべ)にしようとしか考えていないことに気付く。


ポイント: 「紺屋の白袴」ではないが、顧客中心主義やCRMを論じているのにそれが企業側の視点しか見ていないという反省がこの問題の難しさである。しかしこの議論レベルにまではまだまだ及んでいないのが日本流通業の現状でもある。