59.無意味な監査項目の顛末
●タイムカード(IDカード)無駄刻のチェックが・・・
監査担当時に「タイムカード打刻の徹底状況」という項目があった。趣旨は、タイムカード(今はほとんどIDカードスキャンだが)を打刻せずに仕事に従事していると、たとえば遅刻していてもごまかせるから打刻を徹底させようという趣旨らしい。「らしい」というのは、誰に聞いてもこの監査項目の趣旨がこれ以外にはっきりせず、後は「本部の方針だから」という以外答えが返ってこないのである。
そこで、3〜4ヶ所の現場で聞いてみると、毎月数件はタイムカードの無打刻が発生しているという。
従業員が50人いる店舗では、1ヶ月の延べタイムカード打刻回数は
50人×2回(1日)×23日=2300回あることになる。
このうち数件がなぜか無駄刻になり、全体としては極めて少ない。
無駄刻原因は誰もきっちり調査したことはないようだった。ただヒヤリングの中で出てきたことは、次のようなものであった。
1のケースは微妙だが、3〜4人の現場責任者から聞いた限りでは、勤務時間をごまかす意図の下にタイムカードを打刻しないようなものは皆無に近いということであった。
- 大慌てで無駄刻してしまったケース
- 早出残業にしたくはないので、早く出勤して仕事をしていたが正規の時刻にタイムカードを打刻するのを忘れてしまったケース。
- 確かに打刻したのに、機械の不調からか記録されていないケース。
- 勤務が終了して、職場の中で談笑や勤務外会合に出ていて、既にタイムカードを打刻したと錯覚して帰宅するケース。
●無駄刻状況監査の弊害
それでも毎月数件発生している状況だと、監査から指摘されるものだから、現場もいろいろの対策を講じる。たとえば、
その結果、そういう罰を食うのがいやな者のなかには、仕事に就きながらも「もう今日は休日にしておきます」といった者まで出てくることもあるという。これらはすべて現場の長から直接聞いた話である。
- タイムカードの無駄刻者の名前を張り出す。
- 始末書を出させる。
- 無駄刻が複数回に及ぶものに対しては罰としてどこかの掃除をさせる。
現場はたいした実害がないと感じているのに大きなエネルギーを割き、ストレスを感じている。本部のいうことだから、という理由で・・・。
●問題の“軽重”判断の重要性
もともと小売業、飲食業などでは労働時間の問題では、サービス残業の問題が根深い。この問題は多くの場合従業員の熱意によって、あるいはあきらめによってあまり表に出ることが少なかった。近年この問題が行政主導でメスが入れられるようになってきたが、タイムカードの問題よりもこの問題の方がよほど大きな問題だ。そしてこちらには本格的なメスは入っていなかった。
私が問題にしたことは次の2点であった。私が監査した限りでは、実害があまり大きいとは思えないタイムカード問題について、1については誰も明確な回答が出来なかったし、2についてはこのような問題意識が希薄であった。
- 問題の軽重を誰が判断しているのか? またその根拠は?
- おかしいと思ったらそれを議論、検討できる社内土壌がないのか?
私は2回目の監査から、タイムカード問題を監査項目から外し、逆に36協定違反問題やサービス残業問題にどう取り組んでいるかを監査項目に取り上げるようにした。
ポイント: 問題の軽重を判断することはマネジメントの基本である。またこれを自由に議論できる風土も作っていかねばならない。