58.マーチャンダイジングとマーケテイング

ショップの客層分析から
1991年ごろであったと思う。カードデータをもとに、婦人衣料インショップ部門の客層が狙った年代と合っているかどうかを始めて調べたことがあった。その結果、ほとんどの部門で狙った年代層と実際の購買顧客年代層は全体としては合致していた。特に強いとされるブランドショップはそれが顕著で納得できるものであった。
ところが、ある女性アウターのインショップの顧客年代層を店別に仔細に見てみると顧客の年代層が微妙にずれているのに気がついた。

そのショップは商品部の意図としては、35〜49歳のミセスをターゲットとしたアウターショップであった。全社合計のデータとしてみればそれはおおむね商品部の意図に沿っていたのだが、店別に見るとバラツキが存在していた。
商品部の意図、実際の年代が最も高かった店、中位の店、一番若かった店をグラフにすると正確ではないがイメージとしては次のような状態であった。


  • A店、B店、C店の順に客層が若いが、A店、B店の差はそれほど大きくはなく、C店だけは高年齢側にはっきり振れているのが特徴。
商品部のコメントから分かったこと
これについて商品部の担当バイヤーにコメントを求めたら次のような返事が得られた。
  1. 全体にショップの責任者の年齢が若いと顧客も若くなる傾向がある。A店、B店の差はそれではないか。ショップの責任者の年齢はそのショップのターゲット年齢に近い人が本来望ましいと思っている。
  2. C店は責任者がもっとも優秀だが高齢(50歳代)で、しかも固定顧客をたくさん持っている成績優秀店だ。そのため、責任者に一部仕入れを任せている部分もあり、結果的にこうなった。
A,B両店は商品部の予定した誤差の範囲内であろう。
C店は他店とは少し異なる扱いを受けていたことも判明した。

マーチャンダイジングとマーケテイングの違い
このショップ全体の運営がこれでいいかどうかは別にして、C店の好成績は明快な理由がある。
  1. 固定客を多く持っていることで、想定上の顧客ではなく、現実資産としての顧客を前提とした商売が出来たこと。
    これによって守るべき顧客の実際の要望やニーズに合った商品仕入れを行い販売するという、いわば“マーケテイング”的手法が実行できたこと。
  2. また「自主仕入れ」権を認めてもらっているという“権限付与”により売場責任者のモチベーションが高められていたこと。
A、B両店は商品部の想定した客層を前提にした品揃え(マーチャンダイジング)のなかでの販売活動という域を出てはいない。
C店は既にいる多くの固定客との接客活動等を通じてニーズの把握(マーケテイング)を行って商売している。
マーチャンダイジングとマーケテイングの差は、単純にいえばこういうことだと考えてよい。


マーケテイング主軸へ移行を!
もちろん私はマーチャンダイジングを否定しているわけではない。商売が固定客だけで成り立っているわけではないからである。しかし、顧客情報が収集できるツールを持っているのにマーケテイング活動をベースにしないのはおかしいし、損でもある。

商売をやっていくうえで、今の時代は価格かまたは何らかの質(クオリテイー)のどちらかを売り物にしていく時代である。クオリテイーも、商品の質、サービスの質、どちらを主軸に置くかも明快にしていかねばならない。
価格を売り物にすることはなかなか難しい。顧客が望む商品やサービスは、あたるも八卦、あたらぬも八卦ではなく、
  • 重要固定客やターゲット顧客に対して(対象顧客)、
  • マーケテイングや対話を通じて(手段)、
顧客の期待にこたえることによりクオリテイーを提供するという方法にシフトしていくことが必要だと考える。
そしてさらにはマーケテイングからソリューション(一人ひとりの顧客の要求に応える)という領域が次にある。


ポイント: 自分の顧客層を明確にし、そのニーズをマーケテイング手法等により把握してビジネスするということがクオリテイー提供視点の商売には不可欠である。