57.「『志本主義』のすすめ」を読んで(年頭所感)
新年を迎えてネットでいろんなサイトを読み漁っていたら、「志本主義」という言葉が目を引いた。経済産業省経済産業政策局産業構造課長、石黒憲彦氏のネット上に公開されている「『志本主義』のすすめ」というのがそれであり、次の場所で見られる。
http://bizplus.nikkei.co.jp/colm/colCh.cfm?i=t_ishiguro13
これは2003年3月に発表されたようである。
●石黒氏の論点
上記著述文の論点は次のようなものだ。
経産省官僚の方が日本の現状をよく見ている。そしてその現状は今も変わらない。
- 優良企業の第一の特徴は、創業の理念がしっかりしていることである。
- 優良企業の第二の特徴は、経営者が社員との対話を重視し、その時間のほとんどを社員とのコミュニケーションに使っていることである。
- 経営改革の本質が「形」でないとしたら、一体何が本質なのだろうか。私は「志の力を結集すること」ではないかと考えている。
- 企業は人間集団だ。一人一人の動機付けがうまくいって始めて組織全体の力は高まる。
- 振り返れば、日本中の大方のサラリーマンが燃えていない状態におかれているのではないか。
- 最近、日本の生産性は伸び悩んでいるが、究極の原因は、人々が打ち込めるだけの志を持てずに、完全燃焼しないままくすぶっていることに尽きる。もともとの人材は優秀だ。燃える環境さえ作れれば驚くほどの伸びを示すのではないか。
- 企業の最大のステークホルダーは売却で退出できる株主ではない。経営者と従業員こそ最大のステークホルダーである。その最大のステークホルダーが高い志で一体化して働くとき企業価値は最大限に高まる。「志の力を結集すること」、即ち資本主義ならぬ「志本主義」こそ、昔も今も洋の東西を問わず企業経営のベストプラクティス、日本再生のキーワードではないか。
●優良企業について付言
石黒氏の指摘でいくつか感じたことがある。
ひとつは優良企業の第1の特徴に創業理念がしっかりしているとの指摘についてである。
創業理念は普通は社是や社訓のようなものにまとめられている。そしてこれらが社内のあちこちに掲示され、また朝礼などに唱和することが多いと思われる。しかしこういう状態にあることが「創業理念がしっかりしている」ということではない。
現場の事例をしっかり踏まえ、トップを先頭に企業理念の実行状況が恒常的に点検され、絶えず「教え合い」、「直し合い」がなされている状態を「創業理念がしっかりしている」というのであると思う。
特に「現場の事例を踏まえ」というのが重要である。これがなければただの「観念論」である。 こうした体制をぜひ作ってほしいと思う。
もうひとつは、「優良企業第二の特徴は経営者が社員との対話を重視し、・・・」という点である。
これは他の項で私が何度も述べていることであり、詳しく説明の必要はない。あえて付言するならば、経営者や上級管理職者は「聴く」という態度がなかなか取れない。したがってなかなか「対話」にならないのが現状である。これは上の者が自分で自分を変える努力をしないと簡単には変わらない。自分の反省点でもあるが・・・。
「志本主義」はますます強調されねばならない時代になった。
- 店舗にいる若い人から賀状をもらったものの中に、軽い精神障害を起こして異動になったと書いてきてくれた人がいた。店長との折り合いがつかずに悩み始めてそうなったようである。
店長にも言い分があろうと思うが、細かいことはともかく、店長に「聴く」という姿勢が足りなかったのが原因ではないかと思う。両方の人間をよく知っているだけに残念であった。
ポイント: 標語だけでは会社は変わらない。現場を見据えて「会社をよくしよう」という本物の「こころざし」と社内の対話が「志本主義」を作っていく。