51.クリック・アンド・モルタル(解説)

Eビジネス、FSP、別々のテーマか?
2000年ごろ日本の小売業に席を置いていた当時、こんな会話を聞くことがしばしばあった。
  • 「○○百貨店は最近自社のホームページでお客様向けにお歳暮販売のEビジネスをはじめた」
  • 「△量販店がネットスーパーを始めたようだ。ビジネスとして成り立つのかな?」
  • 「○○スーパーが自店の上位顧客に優遇策を始めた。いよいよFSPの時代か?」
この話はどうかすると別々の話題として見られることが多いようだ。しかしそれは違う。実はこれらはすべて本質的にロイヤリテイーの高い顧客増加戦略の一環なのだ。またトータルとしてLTV(Life Time Value)の高い顧客創造維持の戦略と見るべきなのだ。もし小売業内部の人がそれぞれを独立したテーマとして見ているとしたら、それはちょっと勉強不足というものである。
必ずしも事業やプロジェクト単位だけで採算を評価するものではない。

クリック・アンド・モルタル戦略
これらの戦略は、ロイヤリテイーの高い(=自社の購買比重の高い)顧客を増やしたり、あるいは上位顧客の購買比重を一層上げるために、単なる品揃えだけでなく、新たな購買手段(ネットショッピングやネットスーパーなど)を用意するという側面に着目している。
もちろんこれによって新たな顧客獲得も狙っている。

量販店の行うEビジネスは基本的に商圏エリヤ内の顧客を対象にしている。これらの顧客は、例えばネットスーパーで購入する顧客は店頭でも購入行動を行い、いわば実際の店舗とネット購入の両方を利用するのが普通である。同じ顧客が、店頭購入だけの場合と、ネット購入+店頭購入の合計額を比べてみて後者の方が増加していればその顧客の自社支持率がアップしていることになる。これがクリック・アンド・モルタル(Click & Mortar)戦略の基本である。

クリック・アンド・モルタル戦略におけるEビジネス取組の評価は、単純化すれば次の3点で行われる。
  1. (Eビジネス開始後店舗売上+商圏内顧客のEビジネス売上)−Eビジネス開始前店舗売上 > 0
    なら地域シェアーアップになるが、どれだけシェアーアップになっているか?
  2. (Eビジネス開始後の店舗利益+Eビジネス利益)−Eビジネス前の店舗利益 > Eビジネスコスト
    (左辺はEビジネス開始による利益増加分を意味する)
    になっているか? そうならEビジネス成功ということになる。
  3. このとき上記の検証だけで終わってはいけない。
    “店舗+Eビジネス”においてロイヤリテイーの高い顧客が量、質両面ではっきり増加しているかどうかの検証が必要。
3.はCRM情報戦略を実施している企業が着目する最も重要な点であるが、そうでない企業は2.の評価で終わってしまう。
1,2,3すべてが目標をクリヤして初めて成功と言える。

ユニクロのクリック・アンド・モルタル
2002年だったか、ユニクロがフリースのトレーナーを店舗とインターネット両方で展開し、大きな販促も実施した。
このとき、店舗では15色、ネット上では50色の商品を用意し、販売した。
顧客は多分次のような行動をすると想定していたと思われる。
  • ネットでこの商品を見た顧客は実物を確かめたいと思い、店舗へ出かけてそこで購入する。
  • 実物は店舗で確認したがネットの方が色の種類が多いので、ネットを訪れ、実際はネットで購入する。
その他いろいろの行動パターンが発生する。
顧客は購入の選択肢が増え、顧客が、欲しい色の商品を優先するか、購入の利便性を優先するかである。
店舗とネットは双方が相乗効果をもたらすものとして存在しているが故に、セットで評価することが重要である。ユニクロのこの戦略はクリック・アンド・モルタルの分かりやすい例である。



ポイント: 量販店の行うEビジネスは、店舗との相乗効果を上げ、合わせて自店支持率の高い顧客を増やし、なおかつトータルで投資回収するというのが基本である。