48.“うつ病”と企業

昔の部下の退職挨拶
数年前、私のかっての部下だった人から退職の挨拶を受け、びっくりしたことがあった。彼はまだ40歳そこそこで、妻も子供もおり、まじめ有能であったため一時期眼をかけてきた。それが本人いわく、「実はうつ病でしばらく悩んでいました。しかし家族の支えもあり、だいぶよくなってきたのでここらで退職して心機一転やり直そうと退職することにしました」という挨拶であった。
それだけではよくわからないので、本人に事情をさらに突っ込んで聞いてみた。彼の答えはおおむね次のようであった。
  • 「自分は本部勤務から昇格して店の次長になった」
  • 「ここ数年前から不振店舗の担当次長になり、自分なりにいろいろ対策を考えて上司や関係部署に提言してきた」
  • 「しかしその提案はほとんど取り入れられることなく、このままでは自分は上の言いなりに動く存在でずっとすごすのかと思うと夜も眠られなくなり、うつ病にかかっていった」
  • 「妻の暖かい励ましもあって、退職し、心機一転新しい人生を歩もうと決意した」
これは彼の言い分であって、具体的な事実関係の詳細は知らない。また隠された事実が他にあるのかもしれない。

彼の思い出
彼は昔、店に勤務していたときのがんばり屋の態度が私の眼に留まっていたが、あるとき彼は私にこんなことを言った。
  • 「自分は高校卒の学歴しかない。同い年の大卒の人が自分より先に昇進するのを見て、なにくそとよく思う。高卒だから力がないと思われるのがしゃくでがんばってきた」
後日の定期人事異動時にこんな彼を私は本部へ異動させてもらって自分の直属部下にした。彼が本部へ人事異動になって赴任の初日にこんなことを言った。
  • 「君がこれまでどおりの態度でがんばってくれたら私の手で昇格させる。ぜひ私と一緒にがんばってほしい」
彼は仕事で誰もが認めるくらいがんばってくれた。そして社内の試験にも合格し、やがて店へ昇進異動して行ったのである。だから私は彼の言い分を信じたい気分である。

うつ病の背景
社内の関係者から聞かされた話に、「ここ数年うつ病など心の病にかかる社員が多くなっている」という。
軍隊的組織と上司部下関係、競争、ノルマ、価値観の相違、こういうものが輻輳して弾き飛ばされる社員が増えているのだという。これは、管理者、しいては企業そのものの心の狭さと対応していると思う。
私自身も知らぬ間にうつ病の加害原因者になってはいないか、自問の必要があると思った。ウツ状態は軽い症状ならとんどの人が経験することだろう。彼が特別ということはない。これはまた、社会や企業の閉塞感と大いに関係があるように思われて仕方がない。
まだまだ顧客満足や従業員満足という言葉には距離が遠い気持ちになってしまう。



ポイント: うつ病は社会や所属企業と大いに関係している。そして誰もが加害者にも被害者にもなりうる。