46.取引先関係論T: 悪い“冗談”

昔のM電機の話を引用した幹部
私は、元在籍した会社でかなり以前にある会議で某幹部からこんな話を聞いた。話の要旨は次のとおりであったと記憶している。
  • 昔、M電機は下請けの企業に毎年部品納入価格を10%ずつ引下げ要求をしてこれに応じさせてきた。
  • 下請け企業は、必死になってこの要求に対応する努力をし、コスト引き下げになる努力を積み重ね、それはその下請け企業の血となり肉となり、実力を支える大きな元になった。
  • M電機の下請け企業のある社長は、「私の企業が今日あるのはM電機のおかげだ。M電機の厳しい要求に耐えられる基礎的力がこれによって養われてきた。
  • 私はM電機に感謝している」
この話を引用した幹部氏はこの話を元に、「流通業の我々もお取引先にもっと商品購入や経費の削減努力を相手にすべきだ」ということを言ったのである。
大変びっくりしたことを覚えている。
この幹部氏は、コスト削減の努力を訴えたいための例え話として引用したに過ぎず、その真意はある程度理解は出来るが・・・。

引用話の危うさ
しかしそれはそれとしてこの話は、聞くほうの理解の仕方によっては非常に危ない側面がある。
上の下請け企業社長の話は、次のようにも聞こえる。
  • 私はM電機の下請けいじめにあったが、それに負けじとがんばった。
  • その結果、成功した。いじめがなかったら今の私はない。
  • いじめに感謝している。
これが、M電機側の立場を正当化して、取引先にコスト削減を力で求めることを示唆するものであったとしたら、これほど危ない話はない。

いまどきこんな取引先関係話は時代錯誤で、悪い冗談話だ。
例え話が悪いし、聞く方も話し手の真意を計りかねる。

流通業界にはこんな話が出る風土がまだ残っている。先日も某流通企業が取引先に「協賛金」や「応援」を「強要」したとして公取から排除勧告を受けたと言うニュースが流れている。

ポイント: 量販店業界には、改められつつあるとはいえ、取引先を見下すような風土がまだ残っている。幹部の話は内容の組み立てにもっと吟味を!
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