40.90年代、日米小売業競争状況の差
●90年代のアメリカ食品小売業
日本でも流通業の競争状況はかなり厳しくなってきた。破綻をきたした大手企業や破綻に近い企業があることも事実である。
しかしそれでもアメリカの90年代の状況と比べるとその競争状況はまだまだ緩やかであると、アメリカ在住のコンサルタント岩島嗣吉氏から数年前に教えていただいた。そのとき氏の作成された資料を頂いていた。
岩島氏からは、アメリカの流通業界状況やシステム、マネジメントなどの分野で以前から薫陶を受けており、氏の説明を自分なりに確認してみた。
アメリカでは90年代を通じて小売業界の競争はすさまじいものがあった。 アメリカの食品販売業者販売額上位20社ランキング推移を1992、94、96、97、98、99年にわたって示した図を下記に示している。
この図を見て一番に気がつくことは、順位変動の激しさである。岩島氏の説明に改めて納得がいったものだ。
- この図は、岩島嗣吉氏が1998年までの資料を作成しておられたものを元に、私が99年結果を付け加えて編集したものである(したがってこの図の作成責任は前川にある)。
- この図は、1999年に上位20位以内だったSM業態企業が、過去の各年では何位であったかを示している。
- 99年2位のSuper CenterはWALMARTの食品部門売上である。
このように、90年代にアメリカではスーパーマーケット業態の生存を賭けた極めて激烈な競争が行われた。
- WALMARTの食品部門 Super Centerは94年までは上位20社にはなかったが96年にいきなり3位。
- 上位躍進が目立つのは、Ahold USA, Super Value, 14位以下の企業の多くがそれに該当。
- 沈下が目立つのは、A&P, Winn-Dixieである。
- 企業買収、合併が目立っている。
例えば98年5位のAmerican StoresはAlbertsonに吸収、同じく8位のFred MeiyerはKrogerに吸収合併といった具合で、90年代は多くの合従連合が行われた。
下の図のなかでも名前の出ている8社が買収、合併によって名前が消えている。
この結果、リストラ、スクラップアンドビルド、合従連合だけでなく、ロイヤリテイーカード、物流システムなどを含めた情報システム戦略や経営戦略についても自己革新に取り組んできた企業が多かった。
この時期、CRM、SCM、Eビジネスなどの考え方やシステムが生まれ、発展していった時期でもある。
●90年代、日本は失われた時代?
日本ではこれほどの激しい順位変動状況は今までのところない。
日本ではバブル崩壊以降、リストラ、経費節減等守りに重点を置いた企業が多かったのではないか。いわば、「攻め」の対策を打った企業は少なかった。ユニクロなどの例外はあるが。
90年代は日米の小売業に大きな差がついた年代であり、日本の流通業は新しい大きな取り組みが少なく、失われた時代であったといってもよいのではないか。
そして2000年以降もこの差が縮まる気配は弱い。何よりもマネジメントの革新に迫る力が弱い。
片や90年代のアメリカは日本の競争の比ではなかった。これによってアメリカの小売業は磨かれた面もある。
アメリカは今も多くの小売業がWALMARTを意識して生き残りをかけている。情報システムでもRFIDチップをはじめ、この面でもアメリカ発の仕組みが話題となっている。
日本では今後大手量販店の破綻や外国流通業の出店、国内企業との提携などにより業界再編の可能性もあり、マネジメントの革新やシステム武装が進むかもしれない。
ポイント: 日本はマネジメント面でもシステム面でもアメリカに遅れをとっている。 その差は90年代のアメリカの企業間競争にひとつの理由があると考えてもいいかもしれない。
全米食品販売額上位20社ランキング推移
この図の原型は岩島嗣吉氏によって作られたものであり、98年までのデータも
岩島氏作成のものによっている。これに99年のデータを前川が付け加え、
順位変動分を並び替えている。