38.量販店のCRM(またはFSP)導入に際して
●CRM(FSP)導入論議のきっかけ
2001年頃量販店関係者の間で、FSP?ないしは顧客情報利用の話題を直接間接聞くことが多かった。 それらの話を聴いていると何がしかの危惧を感じた。 その理由は、顧客情報活用やCRM(またはFSP)導入論議に商品部や販促部署の人が熱心なケースが割に多いと感じたからである。
なぜそうなるのかはいくつか理由がある。●商品部、販促主導の問題
- 商品部系の方が顧客情報とドッキングしない旧来MDの限界を感じて、新しい手法を取り入れたいと考える人がいること。
- 商品部のニーズを満たすかのように、商社、問屋、製造業系の情報システム会社が提案や企画を商品部や販促担当部署に持ち込むことが多いこと。
特にメーカーや問屋業界が、自社製品の顧客特性を把握し、商品や物流改善に役立てたいために、小売業に共同取組として何がしかの費用援助を申し出るケースがあること。- また、まだまだ商品中心の企業文化が強い量販店では、1や2のニーズに対して会社が反応しやすい土壌にあること。
- 店舗系を預かる本部組織は、日々のオペレーション指導や問題解決の追われ、新しい手法や情報入手ではどうしても商品部系に遅れをとりがちであること。
そうした結果、顧客情報と結びついたカテゴリーマネジメント理論に商品部系の勉強熱心な方は大きな関心を寄せ、情報収集や勉強を行なう。
商品部のニーズとしてそうした問題解決を志向することに何ら異議を唱える理由はない。しかしこれがきっかけで、このニーズに引っ張られてFSPやCRM導入を行なおうとすると、これが実は問題なのである。
●CRM導入はまずは店のために
- 商品部の人はMD手法改善策として顧客情報活用を考える。
- 販促部署は全体の売上改善策として顧客情報活用を考える。
- これらはいずれも部分的には正当なニーズであるが、CRM展開のシナリオ全体を描くものではない。
私の考えでは、CRMやFSP活動の最初の中心は店舗でなければならない。シナリオの最初はここから始めなければならない。
店舗で、顧客は誰か?顧客はどういう特性を持っているか?分析や顧客との対話を通じて顧客のニーズを知り、それに対応するなかで顧客の反応を見る。 結果として店舗で生涯価値(LTV)の高い顧客が増え、業績がよくなっていく、まずこのシナリオを実現していくプロセスが必要である。お店の担当者が、感性と理論の両方を磨くことによって初めて業績向上がある。
●CRMは組織観の変革も要求する
CRMが十分機能するためには、店舗が顧客のために対応できる権限と能力、店舗中心の組織が求められる。もちろん店舗がそれだけの力をつけるための本部サポートが必要なことはいうまでもない。従来の特に量販店企業の中央集権的組織ではCRMは育たない。
既存の組織観を前提に、商品部や販促部署のニーズを満たすための顧客情報利用は現状改善にはなってもCRMになりえない。
最初に商品部のニーズを満たすためのステップを取るという策はCRMではない。売上アップを直接的に追いかけるのもCRMではない。
商品部は顧客にあった品揃えは考えるが、顧客の「関係作り」を実践する部署ではない。販促部署も同じである。
店舗がCRM活動をするにあたり、本部が店舗をサポートする体制を作り、経験を蓄積共有化、応用していく。こういう視点がないとCRM(FSP)導入は失敗する。カテマネは極論すれば第2段階以降でよい。
商品中心から顧客中心へのシフトは、つまるところ中央集権組織観から権限分散組織観へのシフトを要求する。
ポイント: CRM導入は世界観の変革も求められる大きな課題。 これを理解していないとステップもおかしくなる。