37.FSPという言葉とCRMという言葉

小売業にいて、顧客戦略の勉強をした事のある人なら、FSPという言葉とCRMという言葉の両方を見聞きしたことがあるであろう。
この二つの言葉はどう違うのであろうか?

FSPとは?
FSPはFrequent Shoppers Programの略で、直訳すれば「頻度高く購入していただく顧客を作るプログラム」ということになる。これはもともとアメリカン航空が固定客作りのために、繰り返し利用促進を狙ったポイント制の仕組FFP(Frequent Flyers Program)、いわゆる「マイレージ制度」を小売業に応用した考え方がベースになっている。

しかし、固定客作りというのは小売業に限らずあらゆる産業での重要課題である。また、固定客作りには単に上位の顧客に有利になるような特典を付与すればいいのかというとそれほど単純なものではない。

FSPからCRMへ
むしろ、顧客の認識、対話、データ分析結果からする商品やサービスの提供など、顧客との「関係作り」という考え方に基づいた総合的なマネジメントこそがロイヤリテーの高い顧客を維持創造するという考え方に進化している。
これはCRM(Customer Relationship Management)と呼ばれ、アメリカでは専門の学会や多くの関連インターネットサイトがある。

したがって、FSPという言い方はやや狭い、特典ベース思想というニュアンスが濃く、アメリカ小売業でもそれほど一般的な言葉ではない。むしろ、Royalty Programのような言葉の方が小売業ではより一般的である。
日本ではまだまだFSPという言葉が大手を振るっているが、下手をすると誤解を招きやすい言葉ではないかと危惧する。 底の浅い言葉であるからである。私はCRMという言葉のほうがより包括的で、顧客との「関係作り(Relationship Manegement)」を直接的に表現していて適切な言葉だと思う。 この小売業バージョンはRoyalty Marketingかなと思っている。

冗談
なお、最近あるシステム提供業者の方との談笑の中でこんな会話があった。「FSPという言葉は最近では”普通の、スタンプ・プログラム”のローマ字(Futuu no Sutanpu Puroguramu)の頭文字だそうだ」。 単なるポイントプログラムやそれに毛の生えた程度のものではダメだ!という自戒の念と、冗談が入り混じったものとして聞いた。



ポイント: FSPという言葉は底が浅く、誤解しやすい。理論進化の流れでいうと、CRMという言葉が本流だ。
補 論
日本では上得意の顧客を増やす戦略として、まだまだ”FSP”という言葉があまり疑いもなく使われている。
確かにアメリカでも”FSP”という言葉はまだまだ使われてはいる。しかしアメリカではこの用語に代わって”Loyalty Program”という言葉が多く使われるようになってきた。

アメリカでもロイヤリテイーカードはまだまだ会員への値引きやポイント付与だけに利用されている企業が多い。またせいぜい上位顧客により割引を多くしたり、ポイントを多く出したりするだけの例が多い。ここに本質的にかけているのは、「顧客との対話」とそこから得られる顧客の広く深い「知識」や蓄積情報利用による顧客ニーズの実現という視点である。それには顧客への「哲学」視点が必要である。

”FSP”という言葉は単に「頻度多く買ってくれる顧客を作る」という自己都合的視点しか感じられない。ロイヤリテイープログラムの「ロイヤリテイー」という意味には顧客のメンタリテイーを自社に向けてもらうための意味合いがある。そういう意味でどちらかというと「ロイヤリテイープログラム」という言葉が多く使われるようになったが、日本ではまだまだFSPという言葉が幅を利かしているのが現状だ。

ポイント: 単なる「頻度多く買ってくれる」顧客に値引きやポイントを余分に提供するだけでは「ロイヤリテイー」は生まれない。守りたい顧客とのカスタマイズされたコミュニケーションや商品、サービスの提供を通じてのみ顧客のロイヤリテイーが生まれる。