35.子会社のモラルサーベイーから

●モラルサーベイーの薦め
私が子会社監査をしていたとき、ある会社で店の人の発言から、「あ、この会社も本社と店の間でコミュニケーションギャップがあるな」と感じたことがあった。

私は監査時の進言のなかで、子会社のある幹部氏に「一度モラルサーベイーを実施してみては?」という薦めに、彼は即対応した。
もちろん従業員の中から批判的な意見を含めていろいろな意見が寄せられるであろうこと。 その問題指摘に真摯に対応するとともに、従業員とのコミュニケーションを一層強化する必要に迫られることも十分説明し、彼もそれを納得理解していた。

私がその子会社の店長会議に出席し、まず役員である幹部氏がその趣旨を説明し、私がモラルサーベイのとりまとめを担当して絶対に誰が何を書いたかが幹部氏に知れることのないようにする確約をした。

アンケートは大半が提出され、実に約40%の人が自由意見欄に思うことを記入してくれた。
私はアンケートの分析とともに、その自由意見欄をすべてパソコンに入力し、その原紙はもちろん幹部氏に見せることはなかった。 筆跡で誰が書いたかがばれるようでは約束を果たせないからである。
結果はどうであったか?

実施結果に子会社幹部は愕然
正社員を中心に、具体的な問題をめぐって実に多くの批判的な意見や要望が出され、なかには辛口のものも多く含まれていた。
しかし辛口といえるものでも、攻撃的、破壊的なものではなく、そのエネルギーをうまく取り入れることが出来たら非常に前向きのエネルギーに転化するようなものばかりであった。

私はモラルサーベイ結果をまとめ、後日その幹部氏にメールで送っておいた。 数日後幹部氏が私のところへ来て最初に言った言葉、それは、「ショックでした」という言葉であった。
そして、次にいった言葉は、「良かれと思ってやってきたことがみんなには通じていなかった。 これは自分のコミュニケーションが足らなかったためだと思う」であった。

私は言った。
「それは店の人も同じではないですか? そしてそう大きくない会社でも店と本社が空間的にも離れ、社員も100人を越すといかにコミュニケーション対策が重要かということです」。
「あなたの会社が特に問題が大きいということではないと思いますよ。自由意見を書いてくれた人は、表現はともかく内容がまともな意見がほとんどですから」。
「ここからが本当の始まりです」


●次の取り組みへ
そしてさらに私は次のことを進言した。
  1. 店長会議で率直な感想を述べてもらい、管理者としての反省の弁を吐露してもらうこと。
  2. モラルサーベイで現場から出された具体的な問題解決に当たっては、店の代表者何人か含むプロジェクトをつくり、そこで問題解決策を検討してもらうこと。
  3. 子会社役員である幹部氏と店との間にいる地区マネージャーがどれだけ店の率直な意向を把握し伝えているかに関心を払い、時には店にもっと出かけて確認すること。
2.はある意味で、現場の経営参加であり、またマネジメント教育でもある。
3.はやはりトップが顧客や現場を向いている実践を自ら行うことである。 これはWalMartが役員に一定程度の店舗めぐりを義務付けていることと同じである。
この二つはコミュニケーション活動の一環であると私は考えている。

●モラルサーベイ自体も立派なコミュニケーション
モラルサーベイは、従業員が普段公式にいえない意見、要求などが表に出てくる。 これ自体も立派なコミュニケーションである。 私は定期的にこれを実施し、出てきた問題に取り組むことが大事と思っているが、あまり受け入れられないのは残念だ。

ついでながら、モラルサーベイを実施した子会社の幹部氏は、次年度方針を「組織風土の改革」と決定し、腰を落ち着けて取り組むと私に言ってくれた。 そして店の従業員を含むプロジェクトチームを作り、前向きに活動するなかで私に経過報告も行ってくれた。
その結果、店との風通しが以前より良くなってきたことを実感し始めていますとのコメントも頂いていた。
残念ながら、その数ヵ月後私は退職になった。



ポイント: モラルサーベイは公式の「下意上達」手段であり、幹部と末端との溝を発見し、改善できる有効なマネジメントである