私が役職定年になって、その後はじめて与えられた職務が子会社の本社監査(15社を担当)という仕事であった。
●「監査」業務のイメージ
私が「監査」という仕事になんとなく抱いていたイメージは、守るべきルールが守れているか、問題があるようであれば是正指示や命令を出し、せいぜい仕組みをきちんと運用して罪人を出さないようにする位の、あまり面白くない仕事だな、というようなものであった。
事実それまでの監査内容を見ると、「○○が出来ているか」というようなものが大半で、これが出来ていたからといって「それは出来ていて当たり前」の項目ばかりであった。 もちろん出来ていて当たり前のことがなかなか出来ないこともあり、牽制という意味からもそのような監査も必要であることは理解しているつもりであった。
上司である本社専務からは「監査には静態監査と動態監査があり、現状監査では不足している」との指摘もあって、今までの監査を何がしか変えてやろうと思った。
専務のアドバイスもあって、親会社の店舗監査に2店舗付き合ったが、店舗監査がライン業務監査でもあり、取り締まり的匂いも強く子会社監査とは異質のものに思えた(親会社の監査方針には少し異論を持ったが)。
そのときにまず考えたことは、「監査は何のためにあるのだろう?」、「監査を受ける会社が監査(担当)を自分たちにとって味方だと思ってくれなければ、本当に改善に取り組んでくれないのではないか」、ということであった。
●取締型監査から支援型監査へ
いろいろ考えた末、子会社の監査には次の原則で臨むこととした。
- 子会社監査は、監査結果を受けてその会社が自分で進んで“良い”会社になるよう改善実行する気持ちになってもらうものと考えること。
- 出来ていて当たり前の管理統制型監査項目では不十分であり、マネジメント領域に踏み込んだ監査項目を追加設定すること。
- 出来ていて当たり前の監査項目の中でも、特に基本的なものは「自主監査」に基づく申告制度を設定したこと。 もちろん自主監査項目といえども後日改めて私が監査を実施する。
- 管理統制型監査項目でも問題点が見つかった場合は、「不可」という評価で終わるのではなく、なぜ不可になってしまうのかを子会社と共同で討議し、改善策合意まで行くこと。
- 監査が一方的な結論押し付けにならにように、監査が子会社にとって役に立つものであったかどうか、監査自体を逆評価してもらうこと。
(監査を受ける会社は監査担当の“お客様”であり、お客から仕事の評価を受けるのは当然という考え)
名づけて“取締型監査から支援型監査”と銘打った。
そして具体的には次のことを実行した。
まず監査項目を従来の経理、総務ルールなどの徹底状況監査に加え、次のものを追加した。
- 苦情処理、事故処理、社員教育から社員のモチベーション向上策まで企業の前向き政策の取り組み状況を監査項目に加えたこと。
- 既存の監査項目についても、出来ているいない関わらず、よりレベルアップするための仕組みや工夫提案を出来るだけ行うようにしたこと。(パソコンを使った契約管理台帳や残業管理のアウトプットフォーム作りも行った)
- 監査結果に基づき、監査側から必ず「改善提案」を文書及び(または)口頭で行ったこと。
- 監査がそれを受けた会社にとってプラスになったかどうかを、評価してもらうべくアンケートを実施したこと。
●監査を受けた側の反応
結果は自分で言うのも変だが、監査をうけた子会社幹部から多くの感謝の弁とアンケート回答を得た。 子会社の中でも最も管理面の進んでいる企業の社長からアンケートでも次のようなコメントを頂いた。
- 「自社のマネジメント(組織上の問題点やマネジメントスタイル等)や政策の正当性を客観的に判断してもらえる機会は少ない。しかしこのことは企業経営にとってきわめて重要なことと認識しており、今後も社外重役的役割を果たしていただきたい」
多くの会社から、私が子会社監査として”味方”だと意識していただけた会社が多かったのがのがうれしいことであった。
ポイント: 監査も一方的なものであってはならない。監査は子会社が良くなるために行うものであり、共同作業でなければならない。仕事の評価は「後工程」部署にもやってもらう。
なお私は次期子会社担当に引継ぎ文書の一部として下記のような「心得」文書を残した。 これは私のマネジメント観にも基づいている。 |