33.柴田昌治氏のコミュニケーション論

もうひとつ「コミュニケーション」論に付き合っていただこう。

「なぜ会社は変われないか」の著者、柴田昌治氏が続編として「どうすれば会社は変われるか」を書かれたものを読んだ。
この本は1999年にすでに発表されており、今回日経ビジネス文庫本として一部内容が変更されて発刊されたとのことである。 非常に面白かった。

●会社を変えるためのコミュニケーション論
彼は会社を変えるエネルギーとして、人と人との信頼関係やコミュニケーションのあり方に着目し、大上段に振りかぶった議論ではなく、極めて地道なことを説いている。彼はこう説いている。
  • 「会社を変えるには『問題を見えやすくする』こと、それが改革のキーです」
  • 「企業風土・体質の改革というと、『意識改革』が必要だという説教をなさる方がよくいらっしゃる。
  • でも意識改革というのは説教されてできるものでは絶対ないですね。だから、『意識改革をしろ』と唱えるトップや上司は、部下から見たら、『おまえこそ意識改革したら』と思われるわけです」
  • 「多くの企業に共通して見られる体質悪化の要因は、個々の心の持ちようというより、組織の安定を守るという建前によって構築された牽制的な人間関係にあります」
  • 「意識改革を説くよりも人と人とがきちんと信頼関係を結べるようにお互いの向き合い方を健全化していく、情報の流れという観点から人と人とのかかわり方を変えていくことが、実践的な風土改革のアプローチだと私は思っています」
●オプトミーテイングのすすめ
そして会社を変えていくプロセスとして、
第1ステージは「相談しあえる関係づくり」、
第2ステージに「理念、ビジョン、方針」、「戦略、業務改革の策定、マネジメント改革」、
第3ステージに「仕組みが行動様式に定着化」という段階を想定されている。
そのうえで第1ステージの重要性を力説され、「気楽にまじめな話をする場」から会社改革の芽を育てることを主張されるのである。

彼によれば会議は「まじめな話をまじめに話する場」であり、ここでは参加者はおのおのの立場を代表し鎧兜を着て臨みがちで、建前が先行してしまうことが多く、問題を見えにくくしてしまう。 
気楽にまじめな話をするいう場はあまりなく、これを意識的に作っていく必要がある。 こういう場の中心を彼は「オプトミーテイング」というものに求めている。 気楽にまじめな話をする場での人と人とのが向き合い方を買えるときのスタンスとして成功のポイントとなる「心構え」に次のようなものをあげている。
  • 「形式ばらずに気楽な雰囲気を作る」---雰囲気作り。
  • 「結論を出すことをノルマにしない」---議論を十分発散させることで結論を急がない。
  • 「人の話をまず『聞く』という姿勢を持つ」---「話し合い(デイベート)」ではなく「聞き合い」。
  • 「立場を離れる努力をする」---客観視する。
  • 「相手にレッテルを貼ったままにしない」---人を否定しきったままにしない。
  • 「正しいことを言いすぎない」---相手をやっつけすぎない。
  • 「自分の弱みを率直に見せる」---人に相談することは自分の弱みを見せることだ。
●人の話を「聞く」ことの難しさ
この中で一番難しいのは「人の話をまず『聞く』という姿勢を持つ」ということだと確かに思う。 柴田氏はこういっている。
  • 「これが意外に難しいんです。特に年齢が上のほうになってくると、『私は人の話をよく聞いている』と本人は言うのですが、よく尋ねると実はきちんと話は聞いていない。 なぜかというと、自分の固定観念からのストーリーを持っていて、それに当てはまるようにしか人の話を聞けていない」
他産業の会社でもそうかもしれないが、チェーストアという小売業はその成り立ちから軍隊的組織観が強い。 中で働いている人間は、上司や本部を見て仕事をするという体質が出来上がっている。 
顧客中心のものの見方はこの体質とも戦わないとできないのだが、CRMとかエンパワーメントとかいったテーマからも実は体質改善が必要である。 その際、われわれのマネジメントスタイルや人と人とのかかわり方を変えていかないと物事は進まないことを学んだと思う。 私自身もスタイルを変える努力が必要な人間の一人だとも感じた。



ポイント: 相談しあえる関係作りのためのコミュニケーション、「話し合い」ではなく、「聞き合い」を。
追記:  2004.12.25
柴田氏は下記の日経のサイトにも興味ある論考を展開されている。
一読を薦めたい。
http://bizplus.nikkei.co.jp/colm/colCh.cfm?i=t_sibata01