31.小笹芳央氏著「モチベーション・マネジメント」
(株)リンクアンドモチベーション代表小笹芳央氏著の「モチベーション・マネジメント」という本を読んだ。
小笹氏は元日本リクルートにいた方で、人材開発や教育に手腕を発揮され、その後独立されてコンサルタントをされている方である。
この本は、「最強の組織を創り出す、戦略的『やる気』の高め方」という副題がついており、内容はややハウツーものの手法紹介に多くのページが割かれている。 しかし、その前提になる組織観には非常に共鳴するものがある。
彼の論調を整理すると下記のようになる。
●多くの企業で“モチベーションクライシス”
- 現在多くの企業でモチベーションクライシス(働く意欲の大暴落)がおきている。
- 企業にとって最大のコストはは人材であるという考え方は、「縮小均衡」による経営破綻が待つのみである。
- 人材こそが企業成長の最大最強の資源である。
- 従業員のモチベーション低下は企業活動の根幹を揺るがしかねない。
- 従業員に働く意欲を刺激するステージを提供できない企業は、激しい市場競争からの退出を余儀なくされる。
- 企業再生を実現するためにはモチベーション・マネジメントが必要である。
●モチベーションの根源は「コミュニケーション」
- これまで、企業と従業員は、お互い縛りあう「相互拘束型」の雇用システムに支えられていた。
- 右肩上がりの企業成長下では従業員の長期勤続を前提とした習熟度の向上が企業成長にとって重要な価値源泉であった。 従業員も真面目にさえ勤めていれば定年まで会社が面倒を見てくれる安心感があった。
- 企業間競争が激化し大きな成長が困難になって、企業は「よりパフォーマンスの高い人材」を、従業員も「より自分の市場価値を高められるステージ」を互いに求め合う、「相互選択的な関係社会』が到来した。
- これに対して企業は「成果主義」配分に傾斜してきたが、その導入は楽観的でかなり危うい。
- 評価制度や年俸制の運用などがルール万能主義に陥りがちでかえって不信を起こしている。
- それと相互補完関係にあるマネジメントがついてきていない。
- またモチベーションクライシスを起こしているものとして、働く動機のジェネレーションギャップがある。
- これまでの報酬はより豊かな生活実現をするための給与は出世によって得られてきた。
- これからの報酬は働くことの人生における意味を求め、市場価値向上の機会を得るという内容に変わってきている。
そしてここから小笹氏は「モチベーションマネジメント」手法の本論に入る。
このあと、氏は具体的な手法紹介に入っていく。
- 「顔をあわせれば数字の話ばかりでやる気を失う」
- 「あの人と仕事をしても、手柄を持っていかれるだけ」
- こういう人を「モチベーション・ブレーカー」という。
- 「あの人のためならがんばれる」
- 「一度でいいからあの人のそばで学びたい」
- こういう人を「モチベーションマネージャー」という。
- 「モチベーションマネージャーは何を持って従業員のモチベーションを高めていくのか。
- それは「コミュニケーション」の一言に尽きる。
ここまで小笹氏の論調はよい意味できわめて常識的で、当然のことを言っているに過ぎない。しかし多くの企業の中で現実に行われているマネジメントは、氏の指摘するようにモチベーション高揚への視点を欠いたものが多い。
氏の論調には基本的な共感を覚えるが、モチベーションマネージャーのコミュニケーション力は何によって出てくるか?
それはその人が気づこうと気づかないとを問わず、その人の倫理観、使命感、人間観など哲学的なものが究極の源泉であろう。
ポイント: 企業の活力の根源は「コミュニケーション」