29.急成長企業トップの悩みから

トップが知り合いの、50店舗ほどの店舗を持つ企業の話である。
ここのトップは創業者であり、情熱家でもあり、すばらしい人だと思っていた。

●急成長企業に多いマネジメント
ここの会社がここまで成長しえたのはトップの力に負うところが大きい。その会社のマネジメント関連の数表を見せていただいた。 私のいた会社では管理していないようなきめ細かい数表がそこのはずらっと並んでおり、さぞかし管理レベルも高いのだろうと推察した。 しかし、そこの社長Aさんからは意外な答えが返ってきた。
  • 「ここまでやっていても店の仕事の出来栄えは店間によってバラツキが大きい。出来ない店はそこの管理者に問題があるとつい思うのだが、必ずしも店のせいだけではない」
  • 「むしろリーダーである自分が何もかも取り仕切ってきたせいもある」
急成長した会社は、リーダーシップのある人がトップに置かれ、事業発展のために粉骨砕身でがんばってきた方が多い。 無論人徳もある方だから、ある規模までは業績が伸びていく。 そしてある時期になると顧客満足度向上などのテーマにも真剣に取り組み、いろいろの制度を作り上げ、実施に移していく。 
ところがその人が期待するほどの成果が出ず、同じ過ちが繰り返される。 いろいろ指導するのだが、大きな成果が長期にわたって出てこない。 やがて社長は自分の指導に誤りがあるのではと悩み始める。 私の見たAさんはまさにこういう人に近かった。

会社の設立時期および経営基盤を築く成長期には、リーダーの「とにかくこうしてほしい」という力が強くないとうまくいかない。 会社の存亡にかかわる時期の意思決定も同じであろう。 
こういう時期はとにかく議論よりリーダーのものを見抜く力と行動力、部下を思った方向に指揮できるリーダーシップがものを言う。 

●急成長がゆえの「金太郎飴」体質?
しかし、ビジネスが落ち着きを見せ始めるとリーダーシップの中身は変わらなくてはならない。 Aさんはいう。
  • 「顧客満足向上のためにいろいろの仕掛けや仕組、ルールを作って、顧客の視点の重要性を説いてきた」
  • 「しかしこういう話をしているとき、聞いている人の多くが、私の言う真意ではなく、私の顔色を見ている人が多いことに気が付いた」
  • 「彼らにすれば、自分が心の底からお客様を大事に思って顧客サービス向上に取り組むのではなく、私ががんばって言うからそれにしたがって取り組むという側面が強いのである」
  • 「これは、私のマネジメントに何か大事なものが欠けているからだと思っている」
私はAさんの言葉をある程度自分にダブらせながら、反省の気分も込めて彼の気持ちを理解できたと感じている。 Aさんは、熱血漢で、一生懸命自分の考え方を部下に説いてきてはいた。 しかし部下の人の多くはAさんの熱心さと、結論に逆らうまいという気持ちだけが強く、自分で考えて行動しようという態度は深まらなかったのではないか。 
結果として「金太郎飴」体質が出来てしまったように思える。
顧客中心主義の文化形成には、社員が「自分で考える」風土が必要である。 それもできるだけ”やらされ感”がないように。

私はAさんのように会社を立ち上げて大きくした経験はないので偉そうなことはいえない。
ただいえることは、Aさんの会社は「金太郎飴」体質である。
それは多分、Aさんが結論を急いだり、権限委譲を十分行えていなかったり、また失敗がマイナスと見られたりするようなマネジメント体質を脱皮できていないところに問題があるのではないかと思う。
これはやはり“コミュニケーション不足”なのだ。



ポイント: 個人商店から企業になりつつあるときマネジメントは変わらなくてはならない。