22.戸並隆氏の「綻び始めた日本型成果主義人事」について
アルゴ21社のITコンサルタント、戸並隆氏が日経のSmallBizサイトに連載掲載されている、「ITコーデイネーターからの手紙」シリーズはとても面白い。
氏は「SEでありながら、天下国家を論じていこう」という方で、辛口批評もあってすばらしい感覚の持ち主だと感心している。
2003年9月11日の「手紙」のなかで、「綻び始めた日本型成果主義人事について」と題する所論を発表されている。 これが多分多くの中堅サラリーマンに共感を覚えるものだと感じ入った。
●彼の論点
氏の主張のエッセンス部分のみを引用すると、こうだ。
- 「そもそも、業務改革プロジェクトは経営トップのミッションであって、中間管理職がサーブを打って稟議を通していく筋合いのものではないでしょう」。
- 「40代半ば以下の“憂国の士”は、さすがに皆優秀で、問題の本質を見抜いています。 リーダー不在でオペレーションだけに長けた管理職層ばかりが肥大し、変化する能力を失ってしまった会社に愛想が尽きているようです」。
- 「ところで、日本の大企業がこぞって取り入れた成果主義・実績主義賃金制度が、綻びを見せ始めています。 その基となった米国の場合、80年代の“振幅の大きな業績変動”に対処するために実績主義に移行しました。 また、転職が容易な労働市場が整備されているため、比較的スムーズにこの制度が定着したのです。 しかし、90年代半ばくらいから日本で流行り始めた実績主義人事制度は、まったくの経営者のご都合主義です。ある程度全体のパイが拡大している時ならともかく、全体のパイが縮み始めてから総人件費抑制を最大の狙いとして始めたため、結局のところ社員のほとんどが“負け組”になってしまいます。 また、All for one, one for allという日本企業のよき伝統が、数字をベースにした目標管理制度にうまくなじみません。 そのため、富士通など、この制度を愚直に施行した大企業ほど、業績不振に陥っています」。
- 日本型成果主義の最大の問題は、企業の「イノベーション(革新)」を阻害してしまうことなんです。 企業というものは、足元の業績を大事にすることと、明日・明後日を見る視点の両方が必要です。 企業のゴーイングコンサーン(存続と成長)はイノベーションにより担保されます。 日本型実績(成績)主義は、結果的には上からのノルマの押しつけとほとんどの社員にとってノルマ未達の懲罰としての賃金引き下げですから、社員を萎縮させ、挑戦意欲を失わせ、企業からイノベーションの気風を削いでしまいます。 新たなビジネスのやり方を確立するまでのプロセスや、将来の実りにつながるコンピテンシー(潜在力)は、評価の対象外です。
- 「そもそも、実績主義は経営者にも適用されるべきで、当然社員より大きな経営責任を担うべきなのですが、日本企業の経営者は社員の給料は下げても、自分たちは責任から逃れてポストにしがみついています。個別の役員報酬さえ非公開です。ですから、日本型成果主義の悪しき面が発症すると、社員のモチベーションとともにモラールも加速度がついて下降します。 成果実績主義は、もとGEのG.ウェルチが叩き台をつくったように思われていますが、彼は“実力主義”と言っているだけです。 外資系人事コンサル会社が、日本企業が飛びつきやすいように、目先の数字だけで運用できるお手軽なソフトをつくって流行らせたのです。そこには、米国式マネジメントの命である徹底した人材教育とコーチングと職能ごとの転職市場という装置がすっぽり抜け落ちています」。
- 「成果実績主義の次は“公正主義”が経営者の関心をひきそうです。キヤノンとかホンダが検討し始めています」。
- http://smallbiz.nikkeibp.co.jp/members/COLUMN/20030911/103746/より抜粋
つまり整理するとこういうことだ。
●私からするとこれらの指摘は、
- 業務改革はトップの仕事であって下から上がってくるものではない。
- 日本の成果主義は経営者のご都合主義で、人件費抑制の口実だ。ほとんどの社員が“負け組”になってしまうし、イノベーションが起こせなくなる。
- それはノルマ未達のときの懲罰で、将来の実りの力は評価外になっている。
- 実績主義は誰よりもまず経営者に適用すべき。
- アメリカの実力主義は徹底した教育と転職市場を伴っているから受け入れられているが、日本にはこれがない。
- 今後は「公正主義」が関心を引きそうだ。
ポイント: 日本型「成果主義」の危うさ
- 日本の多くの経営者の戦略思考のなさ、哲学のなさの現れである。
- 企業の側から見る思考一辺倒で、マーケット、顧客、社員の側にものの見方の軸を置き換えてみようとする視点の欠如である。
- ピラミッド的(軍隊的)組織観の強い日本企業では、経営トップ側の能力の有無がもろに経営状況に反映してしまうことの危険の現れである。
関連項目 次の“23.社長、役員の、「成果主義」査定は誰が・・?”