18.サービス残業問題は流通業の根深い問題
●流通業の「サービス残業問題」がスポットに
多くの流通業にとって、いわゆる「サービス残業、サービス休日出勤」問題は、頭の痛い問題である。
ところが昨今(2003年9月〜10月)ごろ、労働基準監督局が流通各社の各店や本社に査察が相次ぎ、サービス残業の実態が次々に明らかになり始めてきた。そして監督局の命令で過去数ヶ月間の残業代が「未払い」としてその支払を命じられる事例が多くなってきた。大手小売業では1億円を超える残業代支払命令を受けたケースも出てきたのである。
この問題の発端は小売業で働く労働者の内部告発や労働基準監督局への「垂れこみ」であることも多いと聞く。 しかし行政は今全国的に流通業にもメスを入れ始めた。
●問題の背景
この問題は、業界や企業は右肩上がりの成長期には余り大きな問題にはならなかった。
小売業も身を粉にして働くことの美徳観が強い業界であり、そのことも問題解決を遅らせてきた。
ところが、リストラや労働密度の高まり、低下傾向の賃金、成果主義、営業時間延長などの企業の舵取りが変わってきた結果、内部告発も含め、クローズアップされるようになってきた。
流通業の「サービス残業」問題はコンプライアンス問題としてみれば最大級の課題である。
しかし流通業のサービス残業問題を、コンプライアンス問題としてだけで見るのはものの見方が小さい。 これはオペレーションシステムの問題でもあり、社員「不」満足改善のマネジメント課題でもある。
●企業の対応
流通業の残業管理は企業によって異なるものの、特に店現場では「残業命令のない仕事には残業代を支給しない」というのが一般的であったと思われる。
しかし労基局の厳しい指導もあって、「原則的にタイムカードの退社時間が残業に該当すれば残業代を支払う」という方向に改められつつある。
その上で、管理者が部下の残業管理を一層厳しく行うことを「本社指導」として打ち出してきている。
また残業の異常に多い人の中には、これが「クセ」になっている人がいることも事実である。
この面で残業問題が「意識」問題でもあるという捕らえ方があって、特に人事部のスタッフの中にはこういう捕らえ方が強い。
これに対して売場のほうからは、仕事の質や量、お客様から求められる要求度合いなどと現実の売場人員の質・量とのアンバランスの問題のほうが大きいという声が強い。
この問題に対する会社全体の取り組みが前向きでないと、社員のフラストレーションがたまって行く。店側のこうした声は、量販店の本社と店舗の力関係からはどうかすると本社に届きにくいのが現状である。
●擦り付け合いでは解決しない
以上のように、本社では、コンプライアンス問題及び、売場の人や管理者の意識とマネジメント力の問題としての側面が強調される。
店側からは仕事の仕組やスキルのレベルアップなど業務システム問題という捕らえ方が強い。
そしたややもすれば「擦り付け合い」になる。
私から見れば、両方の指摘ともあたってはいるが、どちらかといえば店側の捉え方がより本質的で、比重が重いという意見である。
そのことは別としてこの論考はサービス残業解決策の提言をすることではない。 「サービス残業」という優れて現場的な問題は、店と本部が現状理解を共通にし、解決策を議論し、実際に改善がなされていかない限り、店のフラストレーションがたまるだけである。
●これは優れて本社のマネジメント力問題
サービス残業問題解決については、店と本部の「共同取組」みが絶対に必要である。店からすれば、いいかげんな残業管理の部分は反省点として明らかにし厳しく対策を講じていく。 あわせて、業務システム問題としてのサービス残業改善策が必要ということを本社に理解させる、大事な機会ということになる。この共同取組は本社が動かない限り実現しない。
この問題は、本社と店舗間のコミュニケーションを通じての問題解決が必要な大きい問題である。 そして優れて本社側のマネジメント力が問われるということをいいたい。
最悪、一番大事なお客様が置いてきぼりにされる懸念がある。
ポイント: この問題は誰が正しくて誰が間違いという問題ではない。会社としての、特に本社の問題解決能力が問われる問題である。