11.テレビ映画「白い巨頭」より
●法廷での水掛け論
連続テレビドラマで楽しみに見ていたドラマがあった。 山崎豊子原作の「白い巨塔」だ。
ご存知の方が多いと思うがこの原作自体はかなり昔の本で、大学病院を中心とする医療界の古い体質と医学観を批判するものとして理解されてきたし、それはそれで正しいと思う。
2004年3月4日放映された場面でこんな場面があった。
第二審の途中まで患者の死因と過失の有無をめぐり、原告被告双方証人である医学関係者の果てしない論争が続いてきた。
●原告の本音(これが本質)
死亡した患者の妻である原告が弁護士にふと漏らした言葉。
確かこういう趣旨の発言であった。そして法廷論争に明け暮れていた原告の弁護士はこの発言にハッとし、この裁判の本当の本質は何かを考え直した。そして訴訟方針を変更した。
- 「私には難しい医学の論争なんて分からない」
- 「これは私たちの裁判であるのに、私たちはそっちのけになっている」
- 「私はただお医者様から主人の治療や死亡について納得のいく説明をしてほしいだけなのに・・・」
その後「インフォームド・コンセント」と呼ばれる論議へ持ち込んで、医者と患者の信頼関係が成り立っていなかったことを前面に押し出して行った。 そして結論は勝訴になる。
原告は難しい医学論議ではなく、自分の夫の治療方針についてどのような選択肢があり、どのようなリスクがあり、その説明を受けた上で、担当医が最善を尽くして治療してもらえるという信頼感さへあれば、他のことは多分どうでもよかったのである。
医者が患者及びその家族に精一杯の誠意と努力と説明をしていれば、たとえ医者にミスがあったとしても納得しただろう。
●小売業へのレトリック
この話は小売業にとっても非常に示唆に富む内容である。
したがってこのドラマのテーマはCRM(Customer Relationship Management)そのものでもあった。
- 白い巨塔=大学病院=日本の医学界ネットワークの大もと==>我々小売業の企業そのもの
- 医局制度=教授中心の縦割り組織=ここからはみ出ると出世街道から弾き飛ばされる ==>多くの企業組織と類似
- 初裁判で争われた論点=誤診かどうか。 技術論争。 素人には水掛け論でわからない。
- 後の論点=医者が患者やその家族に信頼感を与える行動と説明をきちんとしたか?
- 患者と医者の信頼につながる「関係作り」が問題の本質。
- システムや技術も大事だが、何のために?という本質論が先。
- それは顧客や従業員との関係作りによる満足そのものがテーマだ。
小売業も顧客に支えられようと思えば、単なる多頻度購入客ではなく、積極的な支持者(サポーター)が必要になる。
その支持は、究極のところ顧客と小売業とのさまざまな「コミュニケーション」 によって実現されるものだ。 小売業と病院の違いは、病院がお客様を絞れないのに対して、小売業は顧客を絞って いけることだけである。
小売業はあらゆるお客様に対して平等では結局満足を与えることは 出来ない。
ポイント: 上位顧客に特典を与えればいいというような浅い考えではロイヤリテイーの高い顧客は育たない。 顧客との関係をコミュニケーションを含めた広い観点で見ていく必要がある。