6.ギフト券の掛売り論議から(教条主義を排す) 追記あり

量販店は現金、またはクレジットカードによる販売が原則である。
ところがどこの店でも官公庁、地域の有力者、有力企業でまとめ買いのため「掛売り」要請が往々にしてある。
それが単なる地域の有力者というだけではどうかと思うが、いつもいつも贈答品などをまとめ買いされ、その金額が年間何十万円に及ぶ顧客の場合がある。

●掛売り、是か非か?
こういった顧客に「当社はクレジットか現金でないと販売できません」というのはさすがに乱暴な話である。 相手の信用状況の把握とともにそれを社内の複数の部署の人間が確認することくらいは最低必要だと思われるが、それを別にすればこれも顧客ニーズだと思われる。

さらに講じてそのお取引先が図書券やハイカなど換金性の高い商品を売掛で売ってほしいと依頼してきたときどうするか? こんな問題に直面したことがあった。 いろいろな意見が出た。 論点は、
  • (反対意見) ギフト券は換金性が高く、それを売掛で販売するのは危険だ。 その会社や個人が倒産、持ち逃げしたらどうするのか?
    それに従業員の不正の心配もある。
  • (賛成意見) お客様はギフト券を商品の延長と見ている。 
    「ギフト券は売掛がだめだ」という議論は商売ではない。
どちらも一理ある議論である。 問題は何か?
  • 換金性の高い商品はだれかれとなく販売しない (全員が合意できるのではないか?)
  • 例外的にギフト券を売掛販売する余地があるか?
  • 自社の大事な顧客のニーズには可能な限り答えるというスタンスを取るか?
  • また、手続執行の正当性を誰がどのような方法で監視するか?

顧客のニーズに応じるということを前向きに考えるという前提で、上記のような問題の克服策を立てるというのが私の考えである。

●「当社はもう個人商店ではない・・・?」
この問題に関連して、社内にいる大手量販店出身の方が「金券やギフト券を売掛け販売するなんてとんでもない。当社はもう個人商店ではない、立派なチェーンストアなのだから、ギフト券の売り掛けを認めるべきでない」と発言されていたことには驚いた。 私は全く違う意見だ。

顧客、特に大事にしたい顧客のニーズには、何に対してもまず“応えることが出来ないか”を考える。 どう検討してもコストやリスクが大きすぎたり、運営が難しく返ってお客様に迷惑をかけかねない場合はとりあえずはあきらめるしかない。
こういう考え方が「顧客中心主義」なのであり、自社の管理の都合だけで大事な顧客のニーズに頭から応じないと決めてかかるのでは顧客を大事にしているとはいえない。

大手量販店出身者の「もう個人商店ではないのだから・・・」という議論は、小売業発展方向の流れを無視した教条主義である。

(追記)チェーンストアは「商業の工業化」としてスタートした。この思想ではサービスは規格化されたものが基本である。「もう個人商店ではないのだから・・・」という意見はこのような思想を背景にしていると考えられる。しかし、小売業の思想はもう「商業の工業化」という枠を抜け、さまざまの顧客のニーズや「ソリューション」と向き合う時代に変わりつつある。掛売りと言うサービスもこの一環として検討していくべき性質のものであり、この流れを理解しなければならない。(2004.11.3)


ポイント: この問題の結論はともかく、チェーンストアだからというだけで一定の結論を出してしまう”教条主義”は話にならない。顧客ニーズを見据えるスタンスが大事。