第1章 良い望遠鏡架台とは


いくら高性能な望遠鏡であっても、それを載せる架台が良くないと望遠鏡の性能がまったく発揮できないことは経験者なら誰でも知っていることだ。事実、架台は望遠鏡の性能以上の高性能、高精度なものが必要なのだ。

理想的な天体望遠鏡架台(以下架台)とはどのようなものであろうか?

1. 丈夫で.がっちりしていること
2.正確な.自動追尾ができること 
3.軽量なこと           
4.安価なこと 
5.使い勝手がよいこと
6.信頼性が高いこと

鏡筒は20センチのニュートン反射望遠鏡、用途は主に眼視たまに写真撮影をする程度。300倍くらいの惑星の観察や、直焦点での明るい星雲撮影程度、を考えてみよう。   これらを満足できる架台はあるだろうか。


丈夫で.がっちり& 安価なこと&軽量なこと

鏡筒の重量は約15kgだが、鏡筒バンドやカメラ、ガイド鏡、双眼装置、2”広角アイピースなどを相当重いものを載せる場合もあるから総積載重量は20kgは見ておかなければなるまい。自動追尾で天体写真も撮影したいとなれば赤道儀が必須である。これに耐える丈夫で.がっちりしている赤道儀架台は?


EM-200、かEM-400、アトラクスクラスなら1,2はOKだろう。 しかし、価格は架台本体だけで軽く50万を超す。三脚やピラー脚も入れると100万は軽くオーバーするに違いない。趣味は青天井だといっても、たかが娯楽の道具としてはあまりにも高価で贅沢にすぎないだろうか。すくなくとも安価ではない。

重量はどうだろうか、赤道儀本体が30kg脚が20kg錘そのたが30kgくらいとしてざっと80kg、バッテリほか付属品を含めれば楽に100kgを超える。これでは手軽に移動して観望する気にもなるまい。軽量ではない。

正確な.自動追尾ができること

高価な赤道儀を入手したならば、長時間の写真撮影ができるのだろうか。否である。まず機械物にはガタがある。というか、ガタは設けなければならないものだ。当然、ギヤにもガタ(バックラッシュ)を設けなければならない。といえば驚くだろう。 しかし、これは機械工学では常識なのだ。なぜなら、もし、ガタを完全になくしたら、ちょっとした温度変化や偏心、歯切り誤差があっただけで、駆動が渋くなって、悪くすると動かなくなったり、破損などが起こるからだ。 どんなときでも安定した駆動をするためにはある程度のガタはどうしても必要なのだ。 ガタがあれば必ずバックラッシュ(空白)が生じる。もし可動体にアンバランスがあると追尾中に重心が移動する。負荷がマイナスになったとたん突然ガクっと動く。写真などではガイド装置があっても対応できないから致命的だ、。眼視でも気になるものだ。 

極軸の駆動によく使われるウオームギアにはピリオディクモーションエラー(PME)(PE)というものがある。ウォームが1回転するたびに周期的に追尾速度が変化する現象だ。どんなに丁寧に機械加工されたウォームでも製作精度に限界がある。また組み立てられた時点でわずかの偏心やガタも避けられない。長時間露出ではわずか数ミクロンの誤差がすぐン十”のずれを生じる。これだけで高倍率写真撮影では星がぶれ、使い物にならない。ギアーボックスを組み立てた後でさらに、一台、一台、摺りあわせをおこなうことが効果があるが、今時、量産品でこんなコストのかかることはやっていない。最近は赤道儀にPMを覚えさせてキャンセル動作をさせる方法(PEC)が装備されているものもあるが、過大な期待はしないほうがいい。ハードに能力がないのをこんなソフトでカバーしようなどという根性自体がよろしくない。

たとえ、幸運にもそれらがすべて完璧なものが、購入できたとしても、長時間の撮影はさらにたかいハードルがある。1つは極軸合わせの正確さである。高倍率長時間露出の写真撮影には、極望があっても充分ではないほどだ。極望は倍率が高くできない(天の極と北極星を同じ視界に入れねばならない)からだ。ゆえに正確な極軸合わせには、経験、勘とテクニック、物理的な時間が必要になる。さらに絶対に逃れられない問題は、大気の屈折によるターゲット天体の浮き上がり現象だ。(高度40度で約1’、それ以下では驚くほど大きい)こればかりはどんなに高精度な赤道儀でも対応できない。

現在のところこれらを解決する最も確実な方法はCCDやガイド鏡などで自動で強制的にずれを修正する方法であろう。しかし高価なのと、それ用に設計された赤道儀でないと使えないのが欠点だ。

しかし、しかしである。あきらめなくていい。
最近は動画を使った方法も開発されており、これとCCDの高感度化の技術が発達すれば追尾精度などどうでもよくなる日がまもなくやってくるにちがいない。

使い勝手がよいこと

自動導入
天体望遠鏡で最近の流行は自動導入であろう。自動で天体の導入ができる夢の架台。といううたい文句につられて筆者も購入(M社)してしまった1人だが、正直いって大失敗だった。精度や、剛性が悪いのは、仕方ないとしても、肝心の使い勝手が非常にわるい上、安定性や信頼性に欠けるのだ。残念ながら現時点では自動導入機には手を出さないほうが無難なようだ。

自動導入は初期設定をやらねばなにもできない。これだけに、熟練者でも数分かかる。これがいいかげんだと、後の導入がうまくいかないから、納得できるまで何度もやりなおし、これだけに1時間以上かかることさえ少なくない。しかもターゲットがドンピシャ視野の中心にいく訳ではない。これは仕方ないとしても、視野の中心にぴったり入れる操作がひどくやりにくい。とくに行き過ぎて戻る場合、ボタンを押しても、しばらく動かず、突然動き出すから、しまった、と思っても遅い、往復ばかりやって一向にらちがあかない、速度をおとせば行き過ぎはおこらないが、待ち時間の長いこと。あまり慎重にすぎ時間がかかると”アライメント失敗”になり1からやり直しとなるから。なおさら時間のロスだ。こんなことだから、目の前に星が見えていても、その星を視野にいれることさえままならない。話題の彗星や新星などでは見たいと思ってもまったく自動導入できない。
また手動操作をすると、追尾中星が突如動き出し、とんでもない場所に行ってしまうことがある。何度中央に入れなおしても同じことの繰り返し。訳がわからない。これでは安心して使えない

キジュンセイ ドウニュウシマシタ シヤノチュウオウニイレテクダサイ。漢字くらい使えよ。さっぱりわからんえどこだ?これか?端だ。ボタンはどれだ?これか。。。。行き過ぎた、戻りすぎだ。また行き過ぎた。。。。。フーッ。。、やっと入った。OKボタンは?これか。やば。隣のボタンを押したゾ?戻すボタンがない。  プチン。電源を切る。え、また1からやりなおせだと?。苦労して入力してやったのに、直前のことぐらい覚えておけヨ。。。。ムカムカ。。。。。。。。おーアライメントセイコウだと、やった。お目当ての星へゴーだ。あの明るい星が見たいのだが、どうすればいいんだ?星の名前?そんなもの知るはずないだろう。星座表、名前なんぞ出てないぞ、どうすりゃいいんんだ。これかな?GOOOO。ウイーン。。。れ、ない。視野に入ってないじゃないか。どこがアライメントセイコウじゃ、この。。。。


いいよいいよ。なら、手動でやる。。。。ガッ、行き過ぎた、戻りすぎだ。また行き過ぎた。む、むずい。モータを使うのがこんなにやりにくいとは、こりゃ。使いにくーい。。。遅せー。。。まどろっこしい。。。。やっと導入完了。オー、自動追尾が働いている。こりゃいい。やれやれこれで一安心。。。。。。。。と思ったのに。。。アリャリャなんだなんだ。せっかくの天体が突如プイッと逃げたゾ。なんでだ????。。。。。。。。入れる。。。また飛んでいった。。。いれる。。。こうなりゃ根競べだ。。。これでもか。。。また飛んでいった。。。また。。。。。。。。れ、電池切れだ。。。 くそ、これが自動導入か。こんなことなら完全手動方式のほうがよっぽど使い勝手がいいではないか。



取扱説明書にはこんな現象や対策は一切書かれてない。あるのはどうでもいい警告や注意ばかり。なんでこんな取扱説明書ばかりになったのだ。要らん。。。
かくして、大枚はたいて買ったものが、安物買いの銭失いになりめでたくお蔵入り。残るは冷たい視線。自責の念。

やはり自動導入はまだまだ未完成なのだ。安心して使えるレベルとはほど遠い。理論的には高価なGPSや、めんどうな初期設定などしないでも、電波時計だけ装備されていれば、ユーザーが、これがoo星だ、これが△△星だ、これがXX星だと望遠鏡に教えるだけで、どんな場所でも、どんな星でも正確に自動導入ができるはずなのだ。そんな望遠鏡架台が発売されるまで待つことにしよう。

自動導入に限らないが、市販品ではたとえおかしな現象があっても、、これが仕様です。でおわり。すべてメーカーのいうがままだ。ユーザーが立ち入る余地など無い。自由にするには自作しかない。これだけでも自作の価値があるといえるだろう。

信頼性が高いこと
上記がすべて満足できるとしても、信頼性が乏しいのでは意味がない。誤解のないように言っておくと、信頼性が高いということは故障しないというだけではない。精度や性能がどんな場合でもかわりなく一定のレベルでキープされているということだ。これは望遠鏡架台に限らず森羅万象、ありとあらゆる事柄にとって最も大切なことである。望遠鏡架台でも例外ではない。

実際のフィールドに望遠鏡を持ち出して使用する場合、そこにはいろいろの外乱がある。思いがけないもの、雨天や強風、転倒や衝突は論外としても、運搬中や組み立て中のちょっとしたショックやミス、気温変化など、わずかな外乱くらいで、調子が悪くなったするのは最低だ。いやしくとも写真赤道儀をうたうならばどんな場合でも、追尾撮影が失敗なくできなくてはならない。鏡筒のわずかなバランスの変化くらいでガイドの調子が悪くなるなどもってのほかだ。こんなものは極論すれば詐欺だ。とはいっても市販品では制約が多すぎてむりだろうが。信頼性は仕様やスペックには全く載らないから注意が必要だ。結局、できるだけ付加価値が少ないくせにやけに高い機種を選ぶのがいいのかもしれない。

自作機械ではえてして信頼性の乏しいものになりやすいから注意しなければならない。さっきまで調子がよかったんだが、とか、昨日までうまくいっていたのに。とはたんなる負け惜しみにしかならない。しかし信頼性を高めるということは精度を高めること以上に困難なことではあるが。

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