第15章 ピリオディックモーションの正体と退治法


ピリオディックモーションエラー(PE)とは周期的に繰り返す誤差のことで、赤道儀では一般に最終減速に使われるウォームの1回転に同期して発生する追尾速度の変化を指す。厳密にいえば歯車減速でも1歯ごとに速度変化がありPEがないとはいえないが、多くの場合、それらは高速回転だから誤差も小さく問題になることは少なく、低速の最終減速に多く採用されるウォームギアで特に問題となることが多いようだ。

PEがあると追尾速度は変化し、天体が視野の中で移動する。これは特に長時間追尾の必要な写真撮影では、シャープに写すことができないということを意味しており致命的になる。もちろん眼視でも気分がよろしくない。したがってこれは、全くないのが理想だが、残念なことに市販赤道儀では避けられないもので、一般に市販高級赤道儀で±5〜10”、普及機では±20〜と言われている。±20”は木星の視直径にあたり、そのままでは写真撮影は無理だ。自作でしかもポンセットで、果たしてどこまで減らすことができるのだろうか?

筆者はこれまで最終段の駆動は、ロングネジ(タンゼンシャルスクリュウ)方式、とウォーム(セクタ)ギヤ方式を試してきた。それらの経験を通して得られたことを述べることとしたい。


ロングネジ(タンゼンシャルスクリュウ)方式

この方式は理論上追尾速度に追尾1hrで最大0.7パーセント(6.7"/1分追尾)程度の誤差程度の誤差が生じる。これがタンジェントエラーといわれるものだ。これが2時間なら4パーセントの誤差となる。大きすぎると思われるかもしれないが、眼視だけなら実用上ほとんど問題にならない(ちなみに月の速度と恒星速度の差でも3%ある)もし写真撮影をしたいのならば、タンジェントエラーの少ない所(中間点)で行えばよいからこれは大した問題ではない。

問題はPEだ。当初、市販のずんぎりボルトを利用したところ、明瞭なPEが発生した。ボルトの曲がりやスラスト受けの精度が原因と考え、旋盤でネジをつくることにした。(旋盤購入のきっかけ)。しかし小さくはなったが依然としてPEの発生を抑えることはできなかった。ねじがどこかで無理しているのではないか?と考え、ナットが自在に動くようなユニバーサルジョイントを作った。この効果は抜群、PEは目立たないほどになった。
しかしこの方式は追尾終わりでのリセットがやりにくい。リセットの度にモータのカップリングを外し、代わりに手回しハンドルをつけ、ぐるぐる逆転させてスタート位置に返したが、おせじにもスマートな方法ではなく少し不満だ。もっとよい方法を試して見たい。ということで

理論上、タンジェントエラーがなく長時間追尾誤差が全く出ない、かつリセットも楽な方法、つまり、オーソドックスな方法;

ウォーム(セクタ)ギヤ方式

に挑戦することとしたのである。(旋盤さえあれば、ウォーム、ウォームセクタギヤとも自作できることが判ったこともある。)ところがこの方式にしたとたん、今度はピリオディックモーションエラーに悩まされることになり、PEとの腐れ縁が続くこととなったのだ。

試行錯誤

1. まず、セクタギヤとウォームを摺りあわした、半減したものの依然としてPEはのこる。
2. 次にウォームの偏心だが、摺りあわしたウォームがそんなに偏心しているはずはない。実測してみたが0.01mmのオーダーだ。これが原因ではないようだ。
3. つぎにウォームのネジの傾斜の不揃いだ。ネジの摺り合わせをすることとした。やり方は、少し長めのナットを作り、割りをいれておく、これにウォームをねじこみ、#500くらいの研磨砂で回転させながら摺り合わす。回転が軽くなれば、万力ネジなどで少し押しつぶし、同様の作業を繰り返す。均一なあたりがでればOKだ、さらに#1000で摺り合わせして終了。


4. さらにスラスト方向のガタが考えられる。とくに負荷がほとんどない場合駆動が不安定になり、ちょっとしたきっかけで軸方向に動くだろう。ランダムに動く場合もあるが、多くは回転に同期して周期的に動く。重しを載せると直るのはこの疑いがある。この値は(0.05〜0.1mm程度)誤差は一桁以上におおきいのだから見逃す事は出来ない。押しボルトとスプリングでウォームを軸方向に押しつけガタをとる。

5. さらに完全を期するため、スラストを受ける軸受けメタルは球面が理想だろう、と考え球面加工を実施。さらに摺り合わせを行った。
6. PEと良く似た現象だが、追尾中周期的に(回転と必ずしも一致しない)追尾速度が変化する現象にも遭遇した。ウォームは駆動する際、かなり大きな横方向の力をうける。横方向の剛性が低いと、たわみ、耐え切れなくなり、急に戻る。これが、びびりや、追尾速度変化となって現れると考えられる。特に可動(揺動)するタイプ(スプリングなどで押し付け、バックラシュをなくす方式)のウォームは横方向の剛性が低くなりがちで、この現象が起こりやすい。
7. ウォームやギヤは山の先端を少し削って落とし逃げを設けておくことも大切だ。さもないと挙動が不安定になる。


まとめ

ピリオデイックモーションエラー(PE)の原因と効果的な対策

原因                         対策
1. ウォームギアの当たり不良

2. ウォームの偏心               旋盤でネジ(ウォーム)を作る。ウォームとギヤを組み立てた状態で摺り合わせる

3. ウォームのピッチ不揃い           ウォームと長めの割りナットとの摺り合わせる。

4. ウォームのスラストのガタ          ウォーム軸を軸方向に強制的に押しボルト、スプリングなどで押しギャップを0にする。

5. ウォームのスラスト軸受けの凹凸       スラスト受け軸受けを球面工加工、軸との摺り合せ。

6. そのた                   剛性不足、逃げの確保など。

どれ1つとして省略できるものではないが、経験から言うと、5.項目が最も効果が大で、続いて3.項が効果があった。
これら対策によって、PEが当初±30”あったものが現在では少なくとも±5”以下まで追い込むことができた、これは高級赤道儀に匹敵するほどだ。(筆者の例)


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