コラム

社員の化学日記 −第91話 「ゲスなお話」−

別に自画自賛するわけではないが,入社して以来,出社順はほぼ毎日1番である。 そのため,会社で購読している新聞をポストから取り出すのも朝の日課となっている。

新聞だけではなく,テレビ,ラジオも含めたマスコミは,年明け早々から女性タレントと音楽グループのリードボーカルとの不倫報道や某国民的男性アイドルグループの解散騒動の話題で持ちきりである。 特に後者については,大物映画俳優の死亡記事等を除いては通常は芸能ネタなど掲載するはずもない,四大新聞の1面にも載ってしまうほど。

各スポーツ紙が第一報を報道したのを皮切りに,民放の報道番組は言うに及ばず,なんと国営放送のお昼のニュースでも報道され,海外メディアでも報じられたとのこと。

永田町の"先生"方までが会見,インタビューでコメントするなど,国中をあげての大騒ぎとなり,結局約1週間ほど経過後,自分たちの番組の冒頭に全員で生出演。 テレビに向かって謝罪,グループ存続を発表。 その中で唯一最初から事務所残留を表明していたKは「解散」「分裂」とは言わず「空中分解」という言葉を用いた。

「空中分解」の意味を辞書で調べると「航空機が事故のため,空中で壊れてばらばらになること」であり,「解散」は自分たちの意志ではなかったことを強調したかったのかもしれない。

この生出演自体にもいろいろと議論があるようだが,それはおいておいて,この騒動は国会においても話題として取り上げられた。 このグループは2020年の東京パラリンピックのPR活動にも協力していることもあり,衆議院予算委員会においては野党議員が質問としてこの騒動を取り上げ,それに対して総理大臣までが「存続してよかった」とコメント。

一国の国家元首にまでコメントさせてしまう,このグループがすごいのか,それとも単にそれだけ平和な国ということか・・・。

アイドルグループのみならず,形あるものは未来永劫その形を保つことはできず,いつか必ず何らかの事象を契機として分解する。 花瓶やガラスのコップなどは衝撃によって割れてしまうし,紙は引き裂けば破れるし,火をつければ炭になって粉々になってしまう。

「もの」がアイドルグループという組織概念であったり,生物そのものであったりする場合には「もの」の意思(動植物の場合も生存本能)が働くため,「老化」はしても「死」を経なければ「分解」(生物体の「分解」は死後硬直を経た後の体細胞の腐敗を意味する)することはない。

人間は地球上(地殻に埋蔵されているものも含む)に存在する元素や化学物質を用いて,あらゆる化学物質をこの地球上で作り出し,利用してきた。 人工合成された化学物質は当然その活用目的に合わせた化学的・物理的性質をもっており,通常は自然界で分解されることはない。 その結果生じたのが高度経済成長の象徴となってしまった「公害」であり,現在の「環境破壊」でもある。

現在では,「地球にやさしい」などという商業的宣伝文句をつけられて,生分解性○○○,バイオマス○○○などというものも開発されているとか。 実際の製品市場にどれだけ導入され,シェアを占めるようになってきたかは勉強不足で不明だが,この「生分解性」にも言葉のマジックが含まれていると指摘する声もあるらしい。

つまり,「生分解性」を謳っていても完全な分解(たとえば,最終的には自然界で炭酸ガスと水にまで分解されてしまう)ではなく,その化学物質としての性質(合成時にその化学物質に与えようとしていた性質,たとえば合成洗剤ならば洗浄能力)を失った時点で「分解」したとみなし,以後自然界でどうなるかは問題にしていない「生分解性」もあるとか。

そんなことを今回の騒動を報じる芸能ニュースを見ながら考えてしまうのは自分だけか・・・。

話は戻ってしまうが,オリンピック等の社会的な出来事が話題になると必ずそれに伴う経済効果を試算する経済学者がメディアにコメントしており,このグループ存続による経済効果約630億円にのぼると試算したらしい。(逆にいえば,もし解散していたら630億円の経済損失になっていた!?)

このグループは今年で結成25周年。 それを祝して全国ツアーも計画していたらしいが,今回の騒動で観客動員数はさらに倍増。それに伴ってグッズ,CD等のさらなる売り上げもアップも期待されるとか。 一連の騒動が最初からこれらの経済効果を狙ったものであったとしたら・・・,そんなことはないか。

ゲスなお話で失礼いたしました。

【道修町博士(ペンネーム)】

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