コラム

社員の化学日記 −第5話 「弦」−

僕は,中学生の時からギターを弾いている。はじめてギターを弾いたのは音楽の授業でだった。課題曲は滝廉太郎作曲の「荒城の月」だったと思う。 ナイロン弦を張ったクラシックギターだった。

家の倉庫には,乾燥剤(炭酸カルシウム?)にまみれ石灰の匂いがプンプンするメーカー不明のクラシックギターが眠っていた。 (ギターは乾燥しているほうが鳴りよい。そのため乾燥剤と一緒に保管することもある。)同じクラスの子に負けるのが悔しくてひたすら練習していたのを覚えている。

ダスティン・ホフマンの主演映画「卒業」のテーマソング「サウンド・オブ・サイレンス」(サイモン&ガーファンクル)が音楽の教科書に載っており, それがきっかけで洋楽に興味を持ち始め,またポール・サイモンが弾く,スチール弦のフォークギターに憧れるようになっていた。あこがれるのは勝手だが, 中学生の僕にはとてもギターを購入するお金はなく,クラシックギターにスチール弦を張り替えてみようと考えたこともあった(実際はナイロン弦のまま)。 当時読んでいた音楽雑誌に初めて使用したギターは?という質問に,某バンドのギタリストがこう答えていた−「粗大ゴミで拾ってきたギター」。

これに影響されて学校の帰りに粗大ゴミを置き場へ行ってみると,なんとスチール弦の張ってあるフォークギターがあるじゃありませんか!ボロボロだったけど, うれしくて周りの目も気にせず持って帰った。エレキギターを買うまでは,拾ってきたフォークギターのスチール弦の音色に浸っていた。

元々,クラシックやフラメンコなどで使用されるギターの弦は,羊の腸を薄く引き延ばしねじってより合わせて作ったものである。また,ガット(腸)を 使用するためガットギターとも呼ばれている。しかし,製法が難しく手間も掛かるので値段が高いという欠点がある。そのため現在ではナイロン製の弦が主流に なっている(その一方で,ガット弦を愛用する人も多い)。

またフォークギターではスチール製(鉄の合金)の弦が主流で,スチールは電気伝導体(電気を通す)であるため,エレキギターにも使用される。 最近では,銅やリンを混ぜて耐久性をアップした弦や樹脂(極薄のポリマー)によって弦をすっぽりコーティングし,チューニングが狂いにくく, 錆びにくいものも登場してきている。

実家が海に近かった(10m先が海)ため,1日練習をサボるとスチール弦が錆びていたのを良く覚えている。錆びた弦を見ると,練習しなきゃと奮発していた。 大阪にいると少々ギターに触れていなくても,弦が錆びる事はない。久々にギターを手にするとき,弦が錆びないように毎日練習していた頃を思い出す。

【白色林檎(ペンネーム)】

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