コラム

社員の化学日記 −第46話 「"むらさき"の化学」−

関東のお客さんと食事することが多多あり,そのときに話題になるのが食文化の違い。 特に話題になるのが[カレー]や[うどん・そば]。 大阪ではカレーライスといい東京ではライスカレーということではなく,入っている肉が牛か豚ということ。 我々関西人はカレーライスというと牛肉のビーフカレーが当たり前ですが,関東圏の人に聞くと「カレーは豚だよ」という言葉が返ってくる。 肉じゃがも同様で「牛肉の肉じゃがは肉じゃがじゃねえよ」とのこと。 関西人にこのことを話すと「カレーも肉じゃがも牛肉やん,豚肉やて,そんなん違うやん,ありえへ〜ん」と言われます。

寿司ネタでも,関東ではうなぎは珍しく「大阪のすし屋にはうなぎがあんの?そいつは邪道だよ!そんなの出す店はすし屋じゃねえよ,うなぎを食いたかったらうなぎ屋に行きな!」とこう言われるでしょう。

又,大阪にはきつねそばやたぬきうどんなるものはありませんし,ハイカラ…,きざみ…は東京の人には分かりません。 「東京のうどんは汁が真っ黒で食べられへん」と耳にしたことも何度かあります。 僕は言われるほど違いは分からなくそれぞれの美味しさがあり,東京へ行った時にはそれなりに好んで食べます。

だし汁の色は醤油の違いで,関東では料理全般に「濃口醤油」を使います。 関西では「濃口」と「淡口」を使い分け,うどんだしなどは色の薄い「淡口醤油」で味付けるため白っぽい色の汁になります。

そこで「しょうゆ」について調べてみました。 調味料辞典には多すぎてここには載せきれません。 そこでJAS規格を覘きますと手軽に以下の5種類に分けられて

,海いちしょうゆ
  △Δ垢ちしょうゆ
  たまりしょうゆ
  い気い靴海澆靴腓Δ
  イ靴蹐靴腓Δ

とすべてひらかなで記載されていました。

い里気い靴海澆靴腓Δ罎話里蕕覆った。「どんなしょうゆやろ」 先ほどの辞典を見ますと説明が書いてありました。

「さいしこみ醤油は,麹を仕込む時に,食塩水を加えるべきところで生醤油(きじょうゆ)を使い,成分は濃口醤油の約2倍,濃度とうま味,風味が高いのが特徴の醤油です。 醤油を二度醸造する形になるので再仕込み醤油といいます。 以後省略」

漢字で書くと分りやすいですね。 このしょうゆ製造過程での「食塩水を加えるべきところで生の醤油を加える → (塩は使わない) → 濃度が高い」この箇所に注目。

具体的には,大豆を蒸して,炒った小麦を砕いたものと混ぜそれに麹菌を加えてしばらく放置。 数日後に食塩水を入れるのですが,この塩の有無が化学に携わっている者には多いに興味惹かれるところです。

大豆と小麦のタンパク質が細菌による発酵でアミノ酸に分解されてしょうゆができるんですが,塩があると発酵が中途半端になります。 これは漬物の塩もみと一緒で[浸透圧]という作用が働いて細菌中の水分が塩のほうに移動して,細菌は生きることができなくなるからなんです。 ナメクジに塩をかけることも同じ理屈です。

羊羹には保存料が入っていません,それでも腐らないのとも同じですが,この場合は砂糖により細菌の水分が取られてしまうからです。

こういう化学現象を経てしょうゆが作られるんですが,塩の存在で醤油(アミノ酸)を作る反応が鈍る,即ちアミノ酸の多い色の濃いしょうゆのほうが塩分が少ないということに驚かれる人もいるかもしれませんね。 こういったことを考慮すると濃口のほうがアミノ酸も豊富に含まれていて体にいいような気がしますが実際のところはどうなんでしょうか? 成人病検査の度になんやかんやと指摘される私も含めて「塩分控えめに」といわれている人には淡口を避けたほうがよさそうですね。

でも,かつおの出汁が効いた淡口しょうゆうどんはうどんとだしの調和を味わえるし,白しょうゆのカニすきは素材の美味しさが引き立ち,食すると至福の境地へと導いてくれます。 [食不二味]には程遠く,不健康は継続か。

ここで終われば題名との関係は?と言われそうなので東京のすし屋で聞いたうんちくを。

昔,偉い人だけが身に着けていた色が《紫》。庶民は使うのを許されていなかったのでその色へのあこがれが強かった。醤油は当時とても高価で貴重なものだったので,身分の高い人になぞらえて「むらさき」と呼ばれるようになったとか。

【今田 美貴男】

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