コラム

社員の化学日記 −第213話「発酵食品が苦手はなぜ」−

発酵食品が苦手だという人は少なくない。かくいう私もその一人だ。 特に酸っぱくなってしまった漬物など、“発酵の度合いの高い食品”ほど抵抗感が増してしまう。

ただし、必ずしも「酸味」そのものを嫌っているわけではない。

酸っぱくなった漬物は苦手なのに、レモンや酸っぱいミカンはむしろ好物である。この矛盾は、酸味の強弱だけで説明出来そうにない。

酸味の違い

発酵食品の酸味の中心にあるのが乳酸(lactic acid)。

化学名は 2-ヒドロキシプロパン酸で、酸敗したミルクから単離されたことが名前の由来だ。 乳酸には次のような特徴がある。

一価の有機酸

→ 放出する水素イオン(H+)が少なく、刺激は穏やか。

分子量が小さく水溶性が高い、また 舌の受容体にやさしく作用し、酸味を「柔らかい」と感じさせる。

一方、レモンの酸味の中心であるクエン酸は三価の有機酸で、水中でより多くのH+を放出するため、酸味の刺激ははるかに強い。つまり、酸味の強さだけでいえばレモンのほうが圧倒的に強烈だ。

それでもレモンは平気で、発酵食品は苦手。この矛盾は酸味では説明できなかった。

酸味以外が原因なのでは?

微生物が糖やタンパク質を分解する過程で、さまざまな**揮発性有機化合物(VOC)**が生まれる。

これらは酸味とは別の「香りの刺激」を生む。特にアセトアルデヒドやピラジン類は嗅覚に強く訴え、苦手な人には“腐敗”を連想させることがある。

つまり、発酵が進んだ食品を苦手と感じる理由は酸味ではなく、発酵によって生まれるその複合的な香り(腐敗臭)に由来しているのであろう。

乳酸などの酸味は発酵のプロセスの一部にすぎず、主犯ではなかった。

レモンは好きなのに、漬物やヨーグルトは苦手。

この矛盾は、化学的に見るとむしろ自然だ。

苦手なのは乳酸ではなく、発酵反応が生み出す複雑な香り(VOCの集合体)だった。

化学を知ることで、「なぜ苦手なのか」という問いに、少しだけ輪郭が見えてきた。

【白色林檎(ペンネーム)】

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