コラム

社員の化学日記 −第208話「冬の帰り道」

■ある冬の日の記憶

小学生だったある冬の日、通学路の脇に積まれたセメント袋に目が留まった。何を思ったのか、その袋の中身を指ですくって舐めてみた。――塩辛い。

「なんで、こんなところに塩が?」と不思議に思い、家に帰って親に尋ねると、それは道路の凍結防止のためだと教えてくれた。

でも、なぜ塩が凍結を防ぐのだろう?

■凍結防止剤の正体

冬の道路に撒かれる「塩」は、実は「凍結防止剤」と呼ばれるもの。主に使われるのは「塩化ナトリウム(NaCl)」や「塩化カルシウム(CaCl2)」といった化合物だ。これらが水に溶けると、ある不思議な現象が起こる。

■凍らない水の仕組み――凝固点降下

水は通常0℃で凍る。しかし、そこに塩が溶け込むと「凝固点降下」という現象が起こり、凍る温度が下がる。

たとえば、食塩水は0℃では凍らず、もっと低い温度にならないと氷にならない。

これは、水の分子が凍るために整列しようとするのを、塩のイオンが邪魔するから。分子同士がうまく結びつけず、凍りにくくなるのだ。

■塩化カルシウムの力

特に塩化カルシウムは、塩化ナトリウムよりも凝固点を大きく下げることができる。さらに、水に溶けると発熱する性質があり、氷を溶かす力も強い。

そのため、より寒冷な地域では塩化カルシウムが好まれて使われている。

■化学が守る日常

凍結防止剤は、橋や坂道、交差点など、凍結による事故が起こりやすい場所に事前に撒かれる。これにより、雪や氷ができにくくなり、滑り止めとしての役割も果たす。

あの「塩辛いセメント袋」は、実は化学の力で人々の安全を守るための物だったのだ。

■好奇心は化学のはじまり

あのときの「なぜ?」が、今こうして化学の仕組みを語るきっかけになった。

しかし、道に落ちている得体の知れない物を勝手に舐めるようなことは止めたほうがいいだろう。

【白色林檎(ペンネーム)】

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